子育てのヒント

ちょっと気になる性の問題 第1回:小さなペニス(ミクロペニス)

2011年7月24日

性の問題今回から、「性」について、ちょっと気になる症状について連載します。

胎児期の性分化

赤ちゃんは生まれたときに、男の子か女の子かわかります。これは、胎児の間に性が決まるからです。染色体は、男の子では46,XY、女の子では46,XXです。そして、性線は、Y染色体の働きがあると精巣に、働きがないと卵巣に分化します。さらに、精巣から分泌される男性ホルモンが働くと、外性器は男の子のタイプ(ペニスや陰嚢)に、働かないと女の子のタイプ(陰核や陰唇)になります(卵巣は思春期までホルモンを分泌しません)。つまり、ヒトの原型は女性で、これにY染色体や男性ホルモンが働くと男性へと誘導されます。

進行する「女性化(メス化)」

近年、人間社会だけではなく野生生物においても世界的な女性化(メス化)が生じています。これは、世界的に蔓延している環境化学物質(多くは工業製品生産に関連する物質)が女性ホルモン的な作用を発揮し、このために男性ホルモンの作用を低下させるからです。その結果、男の子のペニスが小さくなったり(ミクロペニスといいます)、おしっこがペニスの先端ではなくペニスの途中や根もとから出たり(尿道下裂といいます)、通常陰嚢の中にあるべき精巣が陰嚢より上の鼠径部やお腹の中に留まったり(停留精巣といいます)という現象が増えています。なお、女児では、乳児期からみられる乳房の発育(早発乳房といいます)や低年齢における二次性徴の出現(思春期早発といいます)の頻度が増えており、これも近年の大きな問題です。実際、ヒトにおける女性ホルモン製剤の誤った使用経験や、女性ホルモン様物質を用いたマウスの暴露実験から、これらの現象が女性ホルモン効果の増強で生じることがわかってきています。つまり、近年、男の子の男性化が阻害され、女の子の女性化が促進されています。重要な点は、今回の話題である「小さなペニス」を含め、これらの「性」の問題が顕在化していることです。

相談しにくい「性」の問題

「性」の問題に関連して、特徴的なことは、本人も家族も、なかなか相談するところが見つからないということです。例えば、心臓や腎臓に病気がありそうなときには、比較的容易に誰かに相談できるようです。しかし、「性」に関しては、なかなかこのようにはいかないようです。例えば、ペニスが小さいかもしれないことは、そのように思っても、なかなか相談しにくいようです。これは、私の経験からも「性」に特徴的な現象であると感じます。おそらく、「性」は、個体だけではなく、種の保存に関連するものであり、そのため、人間は、「性」というものを神秘的なものであると本能的に感じているのだと思います。いずれにしても、「性」の問題は、なかなか表面にあらわれにくい問題と思われます。実際、いままでの経験から、多くの隠れた患者さんがいることを実感しています。

見逃されやすい「小さなペニス」

上記の男児における外性器の問題の中で、尿道下裂は、おしっこがペニスの先端から出ないために、通常出生時にわかりますし、停留精巣は多くの場合乳児健診で見つかります。しかし、ミクロペニス単独の場合、大きな問題とは捉えられないことがあります。また、病院にかかったとしても、一般の病院にはこれを専門とする医師はほとんどいません。これも、「小さなペニス」が見逃されている原因のひとつになっているようです。

何が問題となるか

「小さなペニス」は、上記の尿道下裂や停留精巣よりも軽度の状態です。そのため、ペニスや精巣の形態や機能に大きな問題がある可能性は少ないです。しかし、「小さなペニス」では、ズボンのチャックから「立ち小便」できないことや、スイミングのときなどに「からかわれる」ことが問題となります。このような体験は、好ましくない心理的影響を及ぼすと思われます。そのため、乳児期(1歳、遅くとも1.5歳)に治療することが推奨されます。これにより、本人の記憶に残ることもなく、また、集団生活に入る前に治療できます。

「小さなペニス」の診断

進展した状態でペニスを計測し、普通の男の子のペニスの基準値と比較します。この測定方法はとても重要で、これにより計測した長さは随分変わってきます。概ね、伸展陰茎長が3cm以下のときには治療を必要とする「小さなペニス」、3-3.5cmのときには下記のような埋没陰茎を伴うときや肥満のときには治療を必要とする境界型の「小さなペニス」、3.5cm以上のときにはほぼ治療を要しない正常ペニスと見做しえます。
特に要注意な「小さなペニス」は、ペニスの先端が皮膚に覆われていないもの、極度に小さいもの、陰嚢の形の変化を伴うもの(ペニスの上まで覆っていたり、下の部分が2つに分かれているもの)、停留精巣を伴うものです(尿道下裂を伴うもの重度ですが、これは、上記のように出生時に見つかるはずです)。このときには、男性ホルモン効果を減弱させる何らかの特異的な異常が存在する可能性がありますので、きちんとした検査が必要です。
さらに必要に応じて、ホルモン検査などを行います。特に男性ホルモンがきちんと作られているか、あるいは作られて男性ホルモンがきちんと働いているかについて評価します。このホルモン検査については、病院で詳しく説明されることになります。
なお、「小さなペニス」と間違えられやすいものに包茎と埋没陰茎があります。包茎では、見かけ上「小さなペニス」となります。なお、包茎は、ペニス先端が狭いために尿線が2つに分かれるときや陰茎炎となるときには治療対象となります。ホルモン軟膏を使うことで、手術を要することは大きく減少しました。埋没陰とは、ペニスの周辺に脂肪が蓄積するためにペニスが小さく見える状態を指します。

「小さなペニス」の治療

上記のように、ペニスは男性ホルモンの作用で大きくなります。したがって、男性ホルモン投与が治療法となります。一般的にはテストステロンという男性ホルモンの注射あるいは軟膏塗布が行われます。ただ、塗布のときには、母親が男性ホルモンに暴露されないように注意する必要がありますので、より簡便な筋注が推奨されます。私たちのデータでは、25mg(成人の投与量の1/10程度)投与で年齢や体重にかかわりなく0.4-0.5cm大きくなります(注射後1-2週で大きくなり、その後少し縮んで1-2か月後に安定します)。そのため、1-2か月間隔で数回の注射を行います。なお、テストステロンをより強力な男性ホルモンであるジヒドロテストステロンというものに変換する酵素がない患者さんが稀に認められ、この場合には、ジヒドロテストステロンを使うことがあります。これについては、病院で説明を聞いてください。
副作用としては、大きなものはありません。男性ホルモン自体の効果としての副作用として、少し骨の成熟が進むために、最終身長が小さくなるということが言われていますが、乳児期の治療の場合、小児期に適応が生じるので、おそらく問題にはならない筈です。また、肝機能に影響する可能性がありますが、実際にこれが問題になった患者さんは経験していません。

以上、「小さなペニス」について述べました。ご心配な方は、どうぞ浜松医科大学小児科を受診してください(相談電話、小児科外来:053-435-2638)。

小児科の診察室から