クローズアップ「ひと」

「はぐみな第2保育園」園長 長谷美智代さん

2018年10月20日

子どもも親も、みんなで育つ保育園の“ばぁば”園長

はぐみな第2保育園

長谷美智代さんは、保育園の園長先生。でも、長谷さんの姿が見えれば子どもたちはみんな「ばぁば!ばぁば!」とかけ寄ります。そして一斉に「これできたよ」「あれがやりたい」「ご飯食べられたよ」などと話しかけるのです。「私、子どもたちからばぁばって呼ばれてるんですよ」と、はにかむ長谷さん。子どもたち1人1人の目線に立って「ヘぇ~、そうなの」と相槌を打つ眼差しはとても優しく、まるで本当のばあばのよう。そんな長谷さんが理想とする保育園を作るようになるまでの想いと道のりは、どのようなものだったのでしょうか。

「スーパーで育った」子ども時代が全ての原点

はぐみな第2保育園

長谷さんには、現在は成人されたお子さんが4人いますが、彼らが小さい頃、自宅でオープンハウスをしていました。家を週1回開放し、親子で集う場所を提供していたのです。今でこそ子育て支援ひろばや親子ひろばなど、お母さんと赤ちゃんが出かけていく場所がありますが、当時はまだそのような施設も整っていなかった頃です。

4人もお子さんがいて忙しかったにもかかわらず、そんなことをさらりとやってしまう長谷さんの原点は、自身の幼児期にさかのぼります。スーパーを営んでいた実家は、いつも従業員さんやそのお子さんたちが家にいて、賑やかな環境でした。お兄さんやお姉さんたちに遊んでもらったり、一緒にご飯を食べたりする日常。何事もお互い、持ちつ持たれつ、その精神は長谷さん自身が子育てするようになっても変わりませんでした。自分が幼い頃によくしてもらったように、ご近所さんにもしてあげるのは当然のこと。お互い助け合って子育てを楽しくしていきたい!そんな思いがありました。
家にはいつも近所の子どもたちが遊びにくるようになり、地域のママたちの求めに応えるようにして、週1回のオープンハウスを始め、それがやがて子育てひろばに発展していきました。

“子育て“をとことん考えやりぬいた経験が、保育へとつながった

長谷さんの子育ては、常に前向きでした。「せっかく女性に生まれたのだから主体的に出産したい!」という思いから、4人目のお子さんは水中出産をしました。その様子を撮影し、興味をもったママたちと一緒に上映会もしました。また、働くママたちが安心して子育てできるようにという思いから、今でいうファミリーサポートのシステムを近隣の市に出向いて勉強してきたり、「子育て談義」を主催して皆で子育てについて考えたり。今できること、子どもがいるからこそできることをポジティブに捉え、行動に移していったのです。

その行動力の裏には、学生の頃やり残した熱い思いがありました。もともと教師になることが夢だったにもかかわらず、志半ばで東京の大学から浜松の実家に帰らねばならず、そのまま若いうちに嫁いだことから、子どもを産んだ後でも、何かやってみたいという思いや興味関心事がふつふつと沸いていました。それを「子育て中だからできない」とネガティブにとらえず、家族の協力を得ながら、逆に「子育てしている今だからできること」を追求していった結果が、子育てを楽しむことに繋がりました。働きつつ育児しつつ勉強を重ねて、実践からも多くのことを学んでいきました。いつからでも学び直しができる、どんな状況だって楽しめる…そんな勇気をもらえるようなエピソードです。

こうして、子育てひろば、クリニックや保健センターなどでのカウンセラー、療育施設のスタッフなど、数々の子育て支援を実践していく中で、長谷さんはある重要なことに気付きました。それは、「一番大切なのは『親』が育っていくこと。親が育つことで子どもの環境もよくなっていく、親が楽しまなきゃ子どもだって楽しくない」ということでした。しかし、子育てひろばをしたり、勉強会を開いたりしても、働いている親たちが来ることができないという現実がありました。
「働いているパパやママが親業のモデルにできる場所、安心して預けることができる場所、気楽に相談できるパパやママたちの居場所を作りたい」----そんな想いが、理想の保育園を自ら作るという夢へとつながっていくのです。

幼児期から“自然と共に生きていく”経験を

はぐみな第2保育園

そんな長谷さんが作った保育園とは、どのようなものなのでしょうか?
まず、こだわり抜かれた園庭や園舎のデザインをひと目見るだけで、大人もはっと心を掴まれます。地面はでこぼこ、中央には小山がそびえ、ブランコやトンネル、木登りもできてしまう園庭は、子どもがわくわくするような里山の雰囲気。園舎や遊具、おもちゃの素材には、木がふんだんに使われています。

 

はぐみな第2保育園

また、園舎の壁紙には手すきの和紙を使い、のりも市販のものではなく食べても大丈夫な素材を使って一から手作りし、園児と一緒に貼りました。それらは自然素材を使った壁紙なので、呼吸しています。園舎にいるだけで、まるで森林の中にいるかのような環境が作られているのです。

「太陽を浴びると元気が出たり、風を受けると気持ちいいなと感じたり。そもそも人間は、自然の力に癒されている部分がたくさんあるんです。小さい頃から自然の中で暮らすことで、大人になって仕事などで疲れた時でも“自然に癒される能力”が養われるのではないかと思っています」

はぐみな第2保育園

園庭や園舎のデザインには、長谷さんのそうした理念が形になって表れています。

確かに、取材当日は雨が降っていたにもかかわらず、楽しそうに傘をさして水たまりを歩く子どもたちの姿がありました。「自然と共存する力を蓄える」----。目先のことにとどまらず、大人になってからの生き方をも見据えた保育。これが、長谷さんが目指す保育です。

 

“つくる”経験を通して、本物にふれる

はぐみな第2保育園

もともと陶芸など、ものを“つくる”ことを趣味としてきた長谷さん。子どもたちにも自分で作る楽しさを体験してもらおうと、はぐみな保育園では「プレイ&アート」という活動に力を入れています。本物の羊毛でタペストリーを作ってみたり、藍を育ててそれを藍染の染料にし、Tシャツを染めてみたり。筆を使って書道もするし、積木やリトミックなど、いろいろな経験をすることで、子どもたちは自己表現の幅を広げていきます。

さらに、食育も園で大切にしていることの一つです。自分たちの畑で採れたものを使って、園庭に設置したピザ釜でピザも作ります。今年はお米づくりにもチャレンジしました。農業は、長谷さんがお嫁に来てからずっと家業の手伝いとしてやってきたもの。今では園児たちの見本となって一緒に育てています。保育園の給食は、毎日食べるものだからこそ安心で安全なものをと考え、顔の見える生産者たちから食材を調達しています。

はぐみな保育園は開園から3年が経ちますが、長谷さんにはまだまだ、やりたいことがたくさんあります。今後はもっと地域とつながりながら、ママたちの役に立つことも企画してみたい…と、さまざまなアイデアがあふれてきています。

子育て中のママたちの気持ちは、今も昔も変わらない

はぐみな第2保育園

ここでは先生から「あれやって」「これをしなさい」といった指示はありません。むしろ「これやりたい」「あれ、やってみたい!」という子どもたちの声があちこちから聞こえてきます。

「子どもたちにはどの子にも可能性があるんです。それぞれの子のやる気を引き出す“環境づくり”が私たちの最大の仕事です」と、長谷さんは言います。自身の子育てから、一番大事なことは「自分で考えて行動できること」だと感じているからです。はぐみな保育園では「生きる力はぐくむ保育」を信念に掲げていますが、それは机上で考えられた文言ではなく、長谷さんがこれまでの人生の中で経験した“母親”や“ばぁば”としての実感から育まれたことばなのです。

長谷さんの子育て期と、今の子育てを比べて何か違いはありますか?と問うと、長谷さんは「何も変わらない」と答えます。「とても便利な時代にはなっているけれど、ママの子どもに対する気持ちや、子育てが思い通りにならないもどかしさや寂しさなどは、何も変わっていないと思います」。今子育て中のママたちの姿が長谷さん自身にふと重なるような言葉に、長谷さんの中で子育て時代の感覚が色あせることなく息づいていることが伺えます。
「だからこそ、“一緒に子どもを育てる”という気持ちを大切にしているんです。ここは保育園ですが、預ける場というだけにしたくない。ここでママやパパたちと一緒に育てていく、そんな気持ちで子どもたちと向き合っているんですよ」

長谷さんが“ばぁば”と親しまれているのは、あくまでも等身大の自分の経験を基に、今できることを自然にやっているからではないでしょうか。自分の子育て中は、母親たちの代表の一人としてさまざまな学びあいの場づくりを。そしてばぁば世代になった今は、今だからできること、世の中に恩返しできることを、『はぐみな保育園』という形にして……。“ばぁば”の存在は、時に子どもたちを温かく迎えいれ、時に親たちを応援するサポーターとして、いつでもそばにいる安心感を与えてくれているのです。

(取材・文 三浦貴子)

長谷美智代さん プロフィール

浜松市出身。子育て期に心理学などの勉強をしながらクリニックや学校のカウンセラー、保健所の心理相談員や根洗学園や発達支援広場の相談員を経験。2013年に認証保育所「はぐみな保育園」・小規模保育事業「はぐみな第二保育園」・子育て支援ひろば「まんまのつぼみ」を運営する「合同会社 MiMoチルコロ」を立ち上げ、代表に就任。現在は「はぐみな第二保育園」の園長も併任している。