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子どものスポーツ外傷・スポーツ障害

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はじめに

子どものからだの健全な発育にとってスポーツは重要であり、協調性や精神力の養成にもなります。しかし、スポーツを行う子どもにとって、親やコーチの誤った指導や過剰な取り組みが子どもの運動器(骨や軟骨、関節、筋肉、神経系統の総称です)に障害をきたしてしまうことがあります。特に成長期の子どもの軟骨に障害が生じると、のちに骨や関節の変形など将来にわたって異常をきたす結果になることがあり注意が必要です。トップアスリートをめざして過剰な練習量や試合日程などが、かえって子どもの夢や将来を壊してしまうことは避けなければなりません。そのためには学校や指導者、父兄の方々のご理解が大切になります。

1.「スポーツ外傷」と「スポーツ障害」

スポーツによるケガや痛みは「外傷」と「障害」に区別されます。「外傷」は骨折・打撲・ねんざなどで、転倒や衝突など1回の出来事で起こります。ある一定期間治療を行ことで、スポーツに復帰することが可能になることが多いです。一方、「障害」は過剰な練習や無理な動作の繰り返しによって生じる慢性的な筋肉や腱の炎症など、いわゆる「使いすぎ症候群」が原因となることが多いです。また運動をやりすぎて繰り返し骨に負荷がかかると骨に亀裂が入っていわゆる「疲労骨折」という状態になります。徐々に痛みがでてくるのが特徴で、運動の種類によって、負荷のかかるあらゆる部位に発生します。単純X線写真でわかりにくかったり、安静だけで治らずに手術が必要になることもありますので、注意が必要です。スポーツ障害は、慢性的に生じる炎症や疲労骨折など、治療期間が長期にわたる場合もあり、またスポーツを中止するタイミングや再開するタイミングも病態により異なるため、専門医とよく相談して判断することが重要です。

2.子どもの運動器の特徴

子どもの身長が伸びるのは、からだの中の骨が伸びているからです。子どもの骨には、関節にある軟骨以外に、骨の中に骨が伸びる部分に相当する成長軟骨板という軟骨があります。上肢や下肢の長い骨の両端に近い部分にあり、この部分で新しい骨が作られて骨が伸びていきます。ある年齢になると成長軟骨板は閉鎖して、それ以上成長しない成人の骨になっていきます。図1は、上肢と下肢のそれぞれの成長軟骨板の閉鎖する時期を表しています。

図1 上肢と下肢の成長軟骨板の閉鎖時期

図1 上肢と下肢の成長軟骨板の閉鎖時期

文献1より転載

骨の成長とともに筋肉も伸びますが、成長期には骨の伸びが筋肉の伸びより大きいため、相対的に筋肉が短い状態となり、多くのお子さんで筋肉や関節が硬くなりやすい状態となります。これによってスポーツの際にケガをしやすい原因にもつながると考えられます。

3.成長軟骨部で起こるケガ

この成長軟骨板は固い骨と骨の間に存在するため、力学的に弱い状態となり、外力によって軟骨部分をはさんで両端の骨がずれることがあります。これを「骨端線離開」といって、お子さんに特有の骨折に似たケガになります。また筋肉が付着している骨が、筋肉が強く収縮することで筋肉に引っ張られて付着部の骨が剥がれてしまうことがあります。これを「裂離骨折」といいます。また膝の下にある脛骨粗面という部分に大腿四頭筋という太ももの筋肉が付着しており、サッカーや陸上などでこの筋肉が強く収縮することで、この部分が盛り上がった状態になって痛みがでてくる病態をオスグッド・シュラッター病と呼びます(図2)。

図2 オスグッド・シュラッター病

脛骨粗面が隆起して痛みを生じる。

図2 オスグッド・シュラッター病

文献1より転載

4.スポーツ動作別のスポーツ障害の特徴

1)「走る」「歩く」の障害部位と病態

「走る」「歩く」はほとんどのスポーツにおいて基本動作となります。例えば、陸上競技では股関節、膝関節、下腿、足関節、足部の障害が問題となります。主な障害は、「ランナー膝」といわれる、膝の外側からやや上部のあたりで靭帯と骨がこすれて炎症をきたすもの、膝下の内側にみられる疲労骨折、下腿の骨膜に炎症をきたすシンスプリント、アキレス腱やその周囲の炎症、足底の靭帯の炎症などがあります。
また膝蓋骨(しつがいこつ:お皿の骨)に痛みが生じる有痛性二分膝蓋骨というのがあります(図3)。膝蓋骨の骨化障害のため、膝蓋骨が 2 個または数個に分裂した状態となり、そこに筋肉の牽引力が加わって痛みが生じます。

図3 有痛性二分膝蓋骨の種類

痛みを生じるのは III型に多い。

図3 有痛性二分膝蓋骨の種類

文献1より転載

膝関節の軟骨の一部が軟骨の下にある骨の部分で分離し、進行すると関節内に遊離体を生じる疾患を離断性骨軟骨炎とよびます(図4)。10歳代半ばの男子に多く見られます。スポーツ活動で関節面に繰り返し加わる力が骨化障害を引き起こして徐々に骨軟骨片を分離していくと考えられています。

図4 膝離断性骨軟骨炎の病態

矢印の部分の骨軟骨が分離して関節内に遊離する。

図4 膝離断性骨軟骨炎の病態

2)「跳ぶ」の障害部位と病態

バレーボール、バスケットボールや走り高跳びなどの跳躍動作では膝を繰り返し急激に伸ばすことによって膝蓋骨と膝下の骨をつないでいる膝蓋靭帯に炎症を起こして痛みを生じる「ジャンパー膝」というのがあります(図5)。

図5 ジャンパー膝の病態

膝蓋靭帯の骨の付着部に繰り返す負荷がかかり、炎症を生じる。

図5 ジャンパー膝の病態

またこれらの跳躍型の競技では、下腿前面の疲労骨折を起こすこともあります。

3)「蹴る」の障害部位と病態

「蹴る」動作ではサッカーがもっとも多く、ふともも前面の筋肉である大腿四頭筋が強く収縮するためにその付着部の骨に繰り返す強い負荷がかかります。
近位側では股関節の上部にある骨盤の骨が剥離骨折をきたしたり、遠位側では膝下の骨の部分が盛り上がった状態になって痛みがでてくるオスグッド・シュラッター病があります。また、キック動作そのもので足関節の前方の骨が繰り返し衝突することで突出してくる「フットボーラーズアンクル」という病態もあります(図6)。捻挫をしていないのに足関節が慢性的に痛む場合にはこの病態を疑う必要があります。

図6 フットボーラーズアンクル

足関節の脛骨前面や距骨の衝突部分に骨棘が生じる。

図6 フットボーラーズアンクル

4) 「投げる」の障害部位と病態

投球動作による障害では野球がもっとも多く、成長期の障害として肩と肘の障害が問題となります。上腕骨の肩に近い成長軟骨板に強い負荷がかかるところの部分がはがれることがあり、これを「リトルリーグ肩」と呼んでいます(図7)。

図7 リトルリーグ肩

肩を強くねじることで、上腕骨の近位部の成長軟骨の部分がはがれてしまう。

図7 リトルリーグ肩

文献 1 より転載

また、投球動作ではいわゆる「野球肘」というものがあります。肘の内側に強い負荷が繰り返し生じるために、上腕骨の遠位内側の筋肉や靭帯付着部の骨が引っ張られることで骨の一部がはがれて痛み生じる「リトルリーグ肘」や、肘の外側で上腕骨と橈骨の骨どうしがぶつかることで骨や軟骨に障害が生じる、離断性骨軟骨炎といった病態があります(図8)。

図8 野球肘で障害の生じる部位

図8 野球肘で障害の生じる部位

どちらも進行すると肘が伸びなくなることがあります。骨や関節が成長しつつある年代に不適切な練習を行うことで、肘関節に将来にわたって重大な障害を残すことがあります。少年野球や中学、高校で指導者になる大人は、特にピッチャ-で肩や肘の痛みを訴えた場合にはできるだけ早期に専門の整形外科を受診させる義務があります。また各チームには特に肘に負担のかかる投手と捕手をそれぞれ2名以上育成しておくこと、練習量の制限や投球数の制限、登板間隔の制限などを設ける必要があります。

5.成長期の腰のスポーツ障害

成長期のスポーツ障害で比較的多い腰痛ですが、サッカー、体操、水泳、陸上、柔道などあらゆるスポーツで発生します。

1)いわゆる腰痛症

スポーツにより腰部に過剰な負荷や繰り返すストレスが加わることで、腰のまわりの筋肉や背骨を連結している椎間関節という小さな関節に炎症がおきて腰痛を発症します。過剰な練習や過密な試合スケジュールで腰部周囲の筋肉に疲労が蓄積することも原因となります。

腰椎椎間板ヘルニア

椎間板は背骨と背骨の間にあるクッションの役目を果たしている軟骨の一種です。腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板の一部が後ろに飛び出て背骨の中を通っている神経根を刺激して、腰痛や下肢の痛みやしびれ、筋力を低下させることもある疾患です(図9)。

図9 腰椎椎間板ヘルニアの病態

図9 腰椎椎間板ヘルニアの病態

文献1より転載

2)腰椎分離症

腰椎分離症は、背骨の後ろにある突起の付け根の部分の骨が分離する状態です(図10)。成長期のスポーツによる腰の前や後ろへの反復する動作ストレスが分離の原因と考えられており、一種の疲労骨折といえます。早期に診断をしてコルセットなどにより固定をすることで骨を癒合させることが理想ですが、この部分が分離したままとなり、これが両側に生じると背骨と背骨にずれが生じるようになり、腰椎すべり症という病態に進行することもあります。こうなると、腰の痛みだけでなく、将来的に背骨の神経の通り道が狭くなって痛みや歩行に障害をきたす腰部脊柱管狭窄症に進行することがあるので注意が必要です。診断には単純X線を用いますが、早期発見にはCTやMRIが用いられます。分離症の発見が早いと固定により分離部の癒合も期待できますので、スポーツ活動に伴う腰痛では、鑑別のための早期の専門医の受診をすすめます。

図10 腰椎分離症の病態

図9 腰椎椎間板ヘルニアの病態

文献1より転載

6.スポーツ障害の発生予防のために

1)子どもの発育に応じた指導を受けましょう

同じ学年であっても、それぞれ体格も体力も異なります。皆が同じ練習量をこなそうとすると使いすぎとなる選手がでてきます。指導者は、成長期の子どもの将来を考え、それぞれの子どもにあった指導をすべきで、スポーツ外傷やスポーツ障害をおこさない知識と努力が必要です。

2)運動前後にからだの手入れをしましょう

運動してからだを使いすぎると、関節・腱・靭帯に炎症をおこすことがあります。炎症の発生をできるだけ少なく、また発生しても長引かないようにするためには、準備運動(ウォームアップ)と運動後にはアイシングなどのクーリングダウンをするとよいです。

3)しっかり休んで疲れをとりましょう

痛みをがまんしてスポーツを続けても、良い成績をあげることは難しいです。痛みがあるということは、からだが危険信号を出していることと同じです。しっかりと休んで疲れをとることが大事です。

4)痛みの部分の自己チェックをしましょう

特定の部位を抑えると痛みがあり、しばらく練習を休んでもその痛みが引かない場合や、反対側と比べて関節の動く範囲が違う場合は専門医の診察を受けた方がよいです。また、他の人と比べて関節の形が違う(O 脚、扁平足、外反肘など)場合は、スポーツにより障害を起こしやすい可能性があるので注意が必要です。

さいごに

子どものスポーツ外傷やスポーツ障害は、ときに将来にわたって障害を残すこともあります。スポーツの種類や特性に応じた障害についてよく理解し、どうしたら予防できるのかをスポーツ現場の指導者や父兄の方に正しく理解していただく必要があります。健全な子どもの発育を妨げないスポーツ活動を継続していくことが大切です。

文献

  1. 日本小児整形外科学会スポーツ委員会 編集 成長期のスポーツ障害―早期発見と予防のために-2010.9発行
    http://www.jpoa.org/wp-content/uploads/2013/07/sport.pdf (2024年1月5日 接続)

 

藤枝市立総合病院 整形外科 星野裕信

出典:浜松成育医療学講座通信 第8号(2024.2)

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