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子育て世代の従業員が幸せに働ける職場環境づくり 長坂養蜂場

 長坂養蜂場 朝礼

三ヶ日町にある長坂養蜂場は、自社で作るハチミツとその加工品を販売する創業80年の会社です。大規模な会社ではありませんが、店舗には地元や遠方から毎日大勢のお客様が訪れ、通信販売では全国から注文が入る活気ある企業です。同社が成長を続ける鍵は、いきいきと働く従業員たちにあります。子育て世代が働きやすい環境が整えられ、従業員の約8割は女性です。多くの企業が顧客の満足を第一に考える中、長坂養蜂場では従業員の満足を最重視しています。こうした取り組みはどのように始められ、どんな効果を生んでいるのでしょうか。

「お客様第一」から「従業員の幸せ第一」へと大転換

長坂養蜂場には産休・育休はもちろん、時間単位の有給や、アニバーサリー休暇の取得など充実した子育て支援制度・福利厚生があり、子育て世代が安心して働ける環境が整えられています。従業員のうち約半数が子育て中のパパママで、店頭や通信販売では特に女性が活躍しています。どんなきっかけで子育て世代に優しい職場環境に注目し、実践していったのか、三代目社長・長坂善人さんに伺いました。

会社が果たすべき役割に気付いた時、体に稲妻が走った!

長坂養蜂場 社長

長坂社長は東京で就職し、取引先で2年間の修行を経て12年前に家族が経営する長坂養蜂場に入社。入社当初は「お客様第一」を掲げ、従業員への指示を事細かに出し、お客様対応に全力を挙げていました。お洒落な新店舗に新商品のヒット、通販の改革などで売上げは右肩上がり。当初10人ほどの従業員が倍の20人ほどになっていきました。当時は「自分もすごく働いたが、従業員もすごく大変だった」と振り返ります。母親から「あなたのやり方は間違っている」と何度も諭されましたが、聞く耳を持たず、従業員のことは顧みませんでした。

がむしゃらに働く日々に転機が訪れたのは、坂本光司氏(経営学者)の講演を聞いた時。その内容は「会社は、1.従業員とその家族 2.外注先・下請企業 3.顧客 4.地域社会 5.株主の順で幸せにすることが使命である」というものでした。稲妻に打たれたような衝撃が走りました。講演会の後、実際に従業員を大切にして成功している社長さんたちと話す機会も得て、今までの自分は間違っていたと気付き、会社や従業員への想いを新たにしました。

従業員の幸せを願う「理念」と「大家族主義」の実践

社長が長い時間をかけて家族と話し合い、たどり着いた理念は「ぬくもりある会社をつくりましょう」というものでした。この理念ができたのは2011年。東日本大震災の影響もあり、翌年は社長が入社以来、初めて売上げが落ちました。しかし、当時の社長の頭の中は「理念=ぬくもりある会社=従業員の幸せ」を実践するにはどうすればいいかということでいっぱいで、売上げのことは二の次でした。導き出した答えは「大家族主義」。家族だったらどういう制度があれば助かるか、どんな職場環境で働きたいかを真摯に考え、それを形にしてどんどん実践していきました。
例えば「アニバーサリー休暇」(自分や家族の誕生日、結婚記念日など)、「子育てママさん支援制度」(子どもの人数×年間1万円分の自社商品購入可能)など、書ききれないほど多くの福利厚生を生みだし、それは現在も増え続けています。社長がいいと思ったことや従業員の意見を取り入れ、即実行するという姿勢は、社長自身も子育て世代に入っていたことが影響しているかもしれません。

理念に従い、大家族主義を実践していくと一つの成果が見えてきました。それは同社が「絆率」と呼んでいるリピート率(総顧客数内のリピーターの割合)が上がったことです。この絆率は理念ができた一年半後から毎月ずっと上がり続け、現在は高止まりしている状態だそうです。
理念の通りに従業員がぬくもりに満たされ、そのぬくもりがお客様や地域に伝わっていくことを目指した成果はリピーターの増加となり、顧客満足度の高さにつながっていきました。

会社の環境は100点満点! でもそれに甘えない従業員たち

長坂養蜂場 スタッフ

子育て中の従業員の代表として、黒柳宏子さん(左)・小山菜々子さん(右)に職場環境について聞くと、二人とも「100点満点!」と答えてくれました。ただ、それは制度が充実しているからというだけではありません。まだ小さい子どもがいる二人が何より「助かる」と感じるのは、子どもが体調を崩した時の急なお休みでも、社長をはじめ皆が「大丈夫? お子さんについていてあげてね」と心配し、快く休ませてくれることです。
「従業員の多くが子育てを経験し、その最中だからこそお互いを思いやれていると思います。ただ、そこに甘えてばかりではダメ。仕事ができる時は、とにかく一生懸命に頑張って働きたい」と、小山さん。

「大家族主義のよさ、会社のみんなに見守られて、子どもたちが成長していると感じられる環境が100点です」と、黒柳さん。
黒柳さんの場合、三男の出産のため産休・育休制度を利用し復帰しましたが、復帰当初は自分だけ時が止まってしまったようで、焦りや不安を抱えていました。しかし、そんな気持ちに気付いた仲間が、黒柳さんにウェルカムボードを書く仕事の機会をくれました。打ちこむ仕事ができたことで、黒柳さんは自分に自信が持てるようになりました。すると接客中も自然に笑顔が出て、お客様から「黒柳さんは笑顔がいいね、また会いに来るね」と声をかけてもらう機会も増えました。休んでいる間も誕生日にメッセージカードを届けてくれるなど、繋がりを感じさせてくれ、復帰しやすい環境を作ってくれた仲間に、黒柳さんはとても感謝しています。そうして、仲間から感じた「ぬくもり」を今度は一人でも多くのお客様に伝えたいと願いながら接客しています。そんな黒柳さんの夢は、子どもが大きくなったら正社員になり、ずっと長坂養蜂場で働くことです。

 長坂養蜂場 スタッフ

子育て世代の従業員について、長坂社長は「働くママは本当にすごい! ただ、自分は完全に女性の気持ちにはなれないので、できるだけ寄り添い働きやすい環境を整えたいと思っています。こうした制度は無限に増え続けていくでしょう」と断言します。たくさんの支援制度や福利厚生を整えていくことは、働く人とその家族の幸せを実現するという、大切な経営の目的でもあります。
大家族主義の実践と福利厚生の充実という環境だけ見ると、のんびりした会社という印象を受けるかもしれません。しかし、従業員を大切な家族と考えているからこそ、全員がそれぞれの可能性を発揮し、職場でも一人ひとりが輝く主人公になってほしいと願う長坂社長の求める仕事レベルはとても高いものです。
忙しい日々を過ごす子育て世代の従業員であっても、黒柳さんのようにずっと働きたいと思うのは、仕事が大変でも、そこに働く喜びがあるからでしょう。社長が従業員を大切にすることで、従業員はお客様や地域に感謝の思いを還元する。こうした「ぬくもり」の循環が会社の成長に好影響をもたしているようです。今後も同社の取り組みに注目していきたいところです。

会社概要

長坂養蜂場 店舗外観

株式会社 長坂養蜂場
1935年創業。はちみつの生産・販売およびはちみつ加工食品の販売を行う。「ぬくもりある会社をつくりましょう」を理念に掲げ、地元はもちろん全国にファンを増やしている。

所在地:浜松市北区三ヶ日町下尾奈97-1
TEL:053-524-1183
URL:https://www.1183.co.jp/

取材を終えて

取材前は、子育て中のパパママが働きやすい制度を充実させたのは、経営戦略的な狙いがあってのことかと考えていました。しかし実際は、講演をきっかけに社長の「気づき」があり、従業員の幸せを第一に考えたという意外な経緯でした。
しかし、ただ福利厚生を充実させただけではないところに長坂養蜂場が成長を続ける鍵がありました。それは「ぬくもりある会社をつくりましょう」という理念に共感した従業員が自分の環境に感謝しつつ、仕事のやりがいを実感し、大変な仕事であっても自分の持てる力をすべて発揮したいと思える社内の風土が培われている点です。子どもが小さく限られた時間しか働けないパパママであっても、充実した環境とモチベーションの高い社内風土で働くことで、自分が感じた「ぬくもり」をお客様に伝えたいと自然に思えてくるようです。社長は最後に「幸せに働く人、その家族、お客様が増えていってほしい。それで地域にもぬくもりが広がっていく。それは事業規模とか売上げを追及するよりも大事なこと」と話してくれました。

長坂養蜂場のように「理念」のもとに社員の意識が一致して働くことは大きな会社になるほど急には難しいかもしれません。しかし、そこで働く人が本当に仕事に熱意を持っているか、心からの笑顔で接してくれているかなどは、お客様にはよく伝わるものです。多少まわり道に思えても、顧客の満足だけではなく従業員の満足にも気を配り、働きやすい環境を整え、社員のモチベーションを高めることが長い目で見て会社の成長に繋がるのではないでしょうか。

文/河西幸枝
ぴっぴ取材時のウエルカムボード

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