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地域に開かれた高齢者施設へ「バイ・スティックケアサービス」
放課後になると小学生の子どもたちでにぎわう高齢者向け住宅があります。中央区笠井町にある「おおるり笠井」です。
施設の一部を地域住民や子どもたちに開放するこの取り組みは、入居する高齢者と地域の交流を深め、さらに介護職のイメージを変えたいという思いから始まったそうです。この新たな取り組みについて、施設を運営する株式会社バイ・スティックケアサービスの統括マネージャーである塚本絢也さんにお話しを伺いました。
きっかけは従来の施設や介護業界のイメージを変えたかったから
高齢者向け住宅やシニア賃貸住宅などの管理運営を手がける株式会社バイ・スティックケアサービスでは、3年ほど前から「高齢者施設が地域に溶け込む街づくり」「介護をもっと魅力ある業界に!」をテーマにした「未来マチプロジェクト」に取り組んでいます。
「かつての介護施設は山間部や海沿いなど人里から離れた場所に建てられましたが、国の地域包括ケアの推進により近年では市街地に建つ施設が増えています。しかし現在も多くの施設は玄関が施錠され、面会の制限もあり、閉鎖的なイメージは昔と変わっておらず、違和感を抱いていました」とプロジェクトのきっかけを話す塚本さん。入居者が自分らしく生活し、施設をさまざまな人々が集う場所にしたい、そして人手不足が常態化している介護職を明るくポジティブな業界に変えたいという思いがこの取り組みの原動力になっているのです。
駄菓子屋やカフェを設け住民が集う場に
プロジェクトの拠点となるのは自社で管理運営するサービス付き高齢者向け住宅「おおるり笠井」と「おおるり富塚」。両施設とも入居者は日中であれば外出や家族との面会を自由に行うことができます。
プロジェクトが始まった3年前に初めての試みとして開催されたのが「おおるり富塚」での1日出張バー。浜松市内のバーの店主に出張してもらい、入居者や家族はキャンドルが灯る非日常の空間でお酒やドリンクを楽しみました。「入居者さんにも大変好評で、その後も地元企業の協力を得て、ワークショップや飲食店の出張営業、音楽イベントなど、大人が楽しめる質にこだわったイベントを開催していきました。今年2月には地域の方も利用できるカフェ&ギャラリーをオープンしました」
日程を限定したイベントではなく、常設的な活動として2024年7月にオープンしたのが「おおるり笠井」での駄菓子屋コーナーです。施設のエントランスに駄菓子やアイスなどを販売するスペースが設けられ、毎日9時から16時30分まで駄菓子の販売を実施。入居者が食事をするコミュニティルームも開放しており、子どもたちはそこで自由にお菓子を食べたり、勉強をしたりすることができます。
「おおるり笠井は小学生の通学路沿いに施設があり、近くには幼稚園もあります。地域コミュニティが強いエリアでお祭りなども盛ん。子どものころからずっと笠井で生活してきたという入居者さんも多くいます。地域の子どもたちと交流ができる場をつくることで、入居者さんは子どもたちから刺激をもらい、子どもたちはシニア世代の優しさに触れ、お互いが豊かになれる時間を過ごしてほしいと願っています」と塚本さん。
開設前には近隣の小学校の校長先生や幼稚園の先生を招き、子どもの新たな地域の居場所として施設を案内し、オープン当日には約200人が訪れたそうです。放課後になると小学生を中心に1日10組前後の子どもたちが駄菓子を買いに訪れます。「子どもたちの声が聞こえると館内も明るい雰囲気になり、自然にあいさつや会話が生まれます。お孫さんが入居しているおばあちゃんに会いに来て、駄菓子を買ってもらうという姿も見かけます」近くの幼稚園が園児たちのお買い物の練習として利用することもあるそうで、地域の交流施設としても利用が広がっているようでした。
積極的な情報発信で雇用や入居希望者も増加
入居者だけではなく、施設で働く職員にも意識の変化が見られるそう。「以前の施設内は入居者さんと職員だけで閉塞的な雰囲気があったのですが、門戸を開放することで家族や地域住民などさまざまな人の目が入るのでトラブルなどを未然に防ぐきっかけにもなっています」
人手不足が社会問題になっている介護業界ですが、プロジェクトの取り組みをSNSやラジオなどを通じて発信することで、若い世代から「働いてみたい」というメッセージが届くようになり、新規採用につながるケースも増えてきました。プロジェクトを始めてから職員の定着率も高まり、入居希望者も増えているとのことでした。
子どもたちの居場所として活用してほしい
地域との新たな連携として、災害時には地元自治会と協力し「おおるり富塚」の施設の一部を地域住民の避難場所として開放することが決まりました。今後も地域から必要とされる場所を目指し、施設が地域に溶け込む取り組みを積極的に行いたいと塚本さんは話します。
「おおるり笠井」は駄菓子屋の利用は多いそうですが、コミュニティルームの利用はまだ少ないのが現状です。「私自身4人の子どもがいる父親ですが、共働き世帯や一人親世帯の方から放課後に子どもが過ごす場所に悩んでいるという声も多く聞きます。おおるり笠井は子どもたちが放課後に安心して宿題をしたり、お菓子を食べたり、高齢者と折り紙などを楽しんだりと自由に利用できるので、ぜひ気軽に利用していただきたい。地域の保護者の皆さんの支えになる場所になれたらと思っています」
今後は、まだ施設を利用したことがない住民や子どもたちにも、足を運んでもらうきっかけになるようなイベントを企画中とのことです。最新の情報は各施設のInstagramや同社のブログなどで発信されています。近隣の方はチェックしてみてはいかがでしょう。
会社概要
建物建築や社会インフラ整備を手がける須山建設グル-プが、地域の高齢者の生活をサポ-トする新事業として2011年に設立。静岡県西部・中部を中心にサ-ビス付き高齢者向け住宅「おおるり」シリーズの管理運営、シニア賃貸住宅の管理、高齢者住まい紹介センタ-による高齢者の住まいや施設の紹介、訪問介護などのサ-ビスを提供。
株式会社バイ・スティックケアサービス
本社所在地:浜松市中央区布橋二丁目3-36
電話:053-489-3521
URL:https://bystickcare.co.jp/
取材を終えて
高齢者施設に学校や園の行事の一環として地域の子どもたちが訪れるという話題は聞いたことがありましたが、日常的に子どもたちが立ち寄れる施設というのは浜松市内でも珍しい取り組みだと思います。世代を超えた交流だけではなく、介護業界やそこで働く人たちのイメージをポジティブなものにしたいという塚本さんの想いにも共感しました。さっそく、近所にあるおおるり富塚のカフェに子どもや友達を誘って出掛けてみようと思いました。
取材・執筆/北 美緒