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塚本こなみさん 樹木医【後編】

自分の力で生きることを学んでほしい

佐鳴湖の湖岸

塚本さんの自宅からすぐそばに、佐鳴湖の湖岸があります。息子さんたちが2つ3つの頃、しょっちゅう勝手に湖岸へ遊びに行ってしまったそうです。
「近所のボート屋さんが、また(息子たちが)来てる、あぶないって教えてくださるので、迷惑をかけないように水泳を教えました。おかげで、魚のように泳ぐ子になりました」
あぶないから行っちゃだめ、とは言わない。そのかわり泳げるようになりなさい…これが塚本さん流です。

屋根

「屋根の上におふとんを干していると、その上が気持ちいいからって、子どもが寝ころびに来ますよね。すると主人が、あぶないって怒るんですよ。でも、落ちてケガするような子には育てていませんから。息子には、屋根から飛び降りる練習をさせました。火事の場合の避難訓練です。もちろん、全然平気でしたよ。

息子さんが小学校に入学した時、塚本さんは担任の先生にこう伝えました。
「私の子どもは規格品ではありませんので、しつけは私が責任を持ちます。健康であること、やさしいこと、そしてものごとの判断力をもつこと、この3つが大切だと思っています」
先生は「もうひとつ、“学問”もつけ加えてください」と言いましたが、塚本さんは「それは最後でいいです」と答え、「だから、学問しない子に育ちましたけどね」と微笑みます。さらに、息子さんが高校に入学した時には、担任の先生に「体罰OKです」と伝えたそうです。
「親は子どもに、生活の知恵のようなものを渡してあげなきゃいけない。何もできない子は、何も感じない子になってしまいます」その言葉にはゆるぎない信念が感じられます。

子育てと木を育てるのは、一緒なんです

塚本こなみさん

樹木医として木と向かい合ってきた豊富な経験から、「子育てと、木を育てるのは一緒のことです」と言いきる塚本さん。
「幼木のときは土壌をよくしてあげて、水、酸素、土壌微生物の中の善玉菌など、環境をととのえてあげる。そして、支柱をつけてあげる。でも、木の支柱は3年から5年でとってやらないと、支柱なしでは立っていられないように育ってしまう。要は、自分で生きる力をつけるってことなんです」

尊敬する先生が語ったという「枝葉の症状すべて根にあり」という言葉を、塚本さんは大切にしています。
「“心根”って言葉があるでしょ。根本、根気、根幹…いろんな言葉に“根”が使われているように、根がいいと木がきちんと育つんです。それを今度は子育てにあてはめてみましょう、と。子ども自身でしっかり根を張って、自分の力でやっていく力をつけてやらないと。
そして親は、家族関係や生活のこと、食べ物をきちんとする。お金や物でなはい、一番大切なものを子どもに与える。木の仕事をやってみて、ああ、人も社会もみんな同じことだ…と思います」

なるほどと思うことばかりですが、その信念のもと、私たち子育て世代には少々耳の痛い意見も聞かせてくれました。
「子どもは、産んだ以上は親が責任を持って育てるべきだと思っています。社会に責任をとってもらえることではないんです。いまある条件下で、最善をつくして工夫や努力をして、子育てをしましょうよ。子育てに限らず、助けてもらうこと・与えてもらうことが当たり前になってしまっては、どうでしょうか?」

確かに、他人や社会に助けてもらうことを前提にしていると、不満ばかりが募り、自分で何とかしようという力が失われてしまうかもしれません。
「与えられるよりも、与える側の人にならないと。まず他者にお渡しをする、他者にしてあげることから始めないとね。たとえ弱者と言われる立場であっても、人にしてあげられることはいっぱいあるんですよ。そうすることで、支援してもらう一方ではなく、共に生きる道を行けるようになります」

ふと、塚本さんから謎かけのような質問をされました。
「“親”という字はどう書きますか?…“立っている木の横で見る”と書くでしょう? 最終的に、親は“祈ること”と“見守ること”しかできないんですよ」
私たちがこれから長い子育て生活をのりきるための、心の持ちようを教えてもらえた気がしませんか。

大切なことはすべて木が教えてくれた

塚本こなみさん

自家菜園での畑仕事を日々の楽しみにしているという塚本さん。何を育てていらっしゃいますか?と聞くと、両手で数え切れないほどたくさん野菜の名前をあげてくれました。
「今、わが家はブロッコリーまつりなんですよ。目指せ自給率100%!です(笑)」 畑仕事が大好きなあまり、元旦から畑に行こうとして家族にとめられたこともあるそうです。
「塚本さん、虫よけにはどんな薬使ってますかと聞かれたら、“テデトール”使ってます、って答えるの」と、いたずらっぽく笑う塚本さん。テデトールとは「手で(虫を)取る」こと。塚本さんの野菜は全て無農薬で育てています。
「虫が死んでしまうような野菜と、虫がいて元気よく食べている野菜と、どっちがいいの?って考えましょうよ。消費者がもっと、お利口さんにならないといけませんね。無農薬なだけでなく、無堆肥で育てています。植物が自分でしっかり根をはらないといけないから、収穫は1か月くらい遅いけれど、後々までずっと収穫できます」
畑仕事の話が、さきほどまでの子育ての話につながってきました。
「年齢を経て、いのちの大切さを感じるようになりました。私は木に、いろいろなことを教わりました」

ひとつの道、ひとつの仕事を極め、さらにその先へ歩もうとしている塚本さん。その瞳には、生命の神秘につながる奥深い世界が見えているのでしょう。私たちも子育てという仕事を通して、いのちの根幹を感じることができる…そう思えば、たとえ苦しい時でも前に進む力を得られそうです。

 

塚本こなみさん プロフィール

樹木医(日本女性樹木医第一号)、造園家(一級造園施工管理技士)、
はままつフラワーパーク理事長(2013年4月より)、
あしかがフラワーパーク園長、(株)環境緑化研究所社長。
樹木医として巨樹、古木の診断治療、移植を行う他、 観光植物園、公園、ホテル、学校などの造園、設計施工にたずさわっている。

2002年、葉祥明さんの挿絵による絵本「奇跡の木 よみがえった大フジのはなし」(下野新聞社)を出版。
「プロフェッショナル仕事の流儀」「課外授業ようこそ先輩」(ともにNHK)の他、出版、ウエブサイトなど、メディア出演多数。

(2012年4月10日にインタビュー 談・塚本こなみさん 取材・文:ぴっぴ 寺内美登里)

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