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神谷紀彦さん はままつうんどうファンど代表
子どもの今に目を向けて。地域で広げる“スポーツの輪”
「この街のスポーツへのドアは、みんなに平等に開かれているべき」
活動の合い言葉にそう掲げるのは、はままつうんどうファンど代表の神谷紀彦さん。浜松の子どもたちに、運動の機会を提供する活動を行っています。神谷さんが、現在の活動に至った経緯やその想いを取材してきました。
「昔はどこでも気軽に遊んでよかったのが、今は公園でもボール遊び禁止の場所が増え、自由に遊べる空き地もなくなりましたね。学校の夏休みのプール開放はなくなって、コロナ禍でオンラインゲームが普及し、子どもたちは家の中だけでなく、公園でも友達とゲームをやっていたりするんですよね」と神谷さん。「今は、スポーツは習いごととしてやるものになってしまった」と話します。
近年、家庭の経済力や生活環境が、子どもたちの運動能力に影響を与えるという「子どものスポーツ格差」が指摘されています。子どもを取り巻く環境の変化により、我が子の習いごとへの関心は高まっている一方で、実際には金銭面やきょうだいのスケジュール、共働きによる親の送り迎え事情などで思うように通えないケースもあります。
原点は、子ども時代のスポーツ体験
神谷さん自身、身体を動かすことが好きで、大のスポーツ好きだと言います。小学生時代は、ソフトボールの少年団で活動し、その後中学・高校時代は軟式野球部に所属。大学ではラクロスも経験したそうです。
厳しい指導者のもとできつい経験をしたというよりは、スポーツ自体を楽しみ、チームの先輩や同級生との出会いに恵まれ、目標に向かって努力する大切さを学んだと子ども時代を振り返ります。この経験が「スポーツを通じてできる仲間や思い出はかけがえのないもの」という現在の想いに繋っています。また、神谷さんが経営する株式会社サカエでは学校への図書寄贈などの活動をしており、自分ができることは何かをずっと考えていました。
息子のバスケでスポーツにお金がかかることを知る
神谷さんは、現在高校1年生と小学5年生の息子を持つ、二児のパパでもあります。2021年に「はままつうんどうファンど」を立ち上げる直接のきっかけとなったのは、自身の子育て経験でした。
「我が子には、様々なスポーツを経験させ、本人の性格や気持ちを大切にして、多くの選択肢を示してあげたい」と考えていた神谷さん。当時小学3年生だった次男がバスケットボールを本格的にやりたいということで、ジムの先生や周りの人から子どものスポーツに関する情報を集め始めました。そして分かったことは、今のスポーツは、強くなりたければなりたいほど、続ければ続けるほどお金がかかるものということでした。月謝だけでなく、最初に購入するユニフォームや道具の費用、シューズなど消耗品の買替え、試合遠征や合宿での親も含めた交通費など。その他にも子どものパーソナルトレーニングというさらに費用がかかる選択肢もあるのです。
お金ですべてが決まってしまうことに違和感を覚えながらさらに状況を聞くと、経済的な理由で、スポーツの習いごとや部活動に通えなかったり続けられなかったりする子どもたちが増えているということも改めて知りました。
神谷さんは子ども時代の体験と自身の子育て経験から、「スポーツは、子どもたちに自信や夢をあたえてくれる大切なもの。自分自身も多くのものを学んだスポーツを通じて、未来を担う子どもたちへ貢献したい」という想いで、活動をスタートさせました。
ファンどの活動のなかで生まれる“繋がり”
はままつうんどうファンどでは浜松市内の親子に向けて、主に小中学生を対象とした無料のスポーツ教室を開催し、さらにスポーツの習い事の奨学金給付を行っています。
スポーツを始めるきっかけを提供:親子参加型の無料スポーツ教室
無料のスポーツ教室はスケートボード、ロープクライミング、陸上など種類は様々で、神谷さんと繋がる有志たちの協力のもとに運営。彼らは自身の持つ、専門的な知識やスキルを無償で提供し、社会貢献活動を行う「プロボノ」として携わっています。
この教室は、参加の親子にとってはスポーツを楽しめる場となっています。そして神谷さんにとっては、子どものスポーツに関する情報収集と発信の場でもあります。活動中に参加の親子と話をすることで子どものスポーツに関する状況を聞き、今のスポーツの情報を保護者にも伝えているそうです。イベント後も公式LINEで繋がり、継続して情報発信などを行っています。
神谷さんは、「子どもに合ったスポーツを見つけるためにも、早くから競技を絞るのではなく、いろいろなスポーツを体験したり見学したりしてほしい」と話します。この教室はまさに子どもたちにとって、様々なスポーツを経験する場となっています。
スポーツを続けるための支援:スポーツの習いごとの奨学金
子どもがやりたいスポーツを続けられるよう、経済的なサポートとして運動系の習いごとや部活動の費用に充てられる返済不要の奨学金を提供しています。対象は浜松市内の主に小学4年生から中学3年生で、1年間に3万円のサポートを最長3年間継続するものです。
子ども本人や家族の熱意があるにも関わらず、経済的な理由でスポーツをあきらめざるをえないケースなどに給付していて、中学から始めたバスケを高校でも続けたいという高校生への支給例もあるそうです。
こうした活動の一方で、「本当に必要としている家庭に届いているか」という課題も感じているそうです。Instagramで子育て世代に向けた無料イベントや奨学生募集の情報を発信することに加え、社会福祉協議会を通して困っている家庭に声をかけてもらっています。
「日本は、困っていると声を挙げにくい社会。何もやらないよりは、何かやった方がいいのではないかという想いで取り組んでいます」と神谷さんは話します。
“子どもたちへの輪”をもっと広げたい
活動を通して、「子どもたちが成長していく姿をみることが、私の幸せ」と感じている神谷さん。個人で活動している理由については、「自分の活動が誰に届くのか、何をしたかが分かるから。自分の想いや活動の主旨が薄くならないように、自分らしいやり方でやっています」と話していました。
「はままつうんどうファンど」の『ファン』には、スポーツを楽しむというfun(楽しい)の意味と、スポーツのファンだけでなく、自分の活動に共感して、子どもを取り巻く問題に目を向けた取り組みが広がってほしいという願いも込められているそうです。「スポーツでなくても、音楽でもなんでも自分の好きなこと・出来ることでいいと思います。それぞれの分野で、自分のやり方で、未来を担う子どもたちへの活動の輪が広がっていけばうれしいです」と語っていました。
神谷さんは、自分の経験の中できっかけとなる想いや行動があれば、周りと“繋がる”ことで子どもたちを応援できるということを、子育て世代と同じ目線で教えてくれました。
取材・執筆/鈴木 とわ
神谷紀彦さん プロフィール
2021年に「はままつうんどうファンど」を立ち上げる。「スポーツから学ぶ機会に格差はいらない」として、浜松市内で子どものスポーツ分野の体験格差解消に向けた活動を行っている。
浜松市の技術商社 株式会社サカエ代表取締役社長。
二児の父。