TOPぴっぴのブログ特集記事クローズアップ「ひと」内山敏さん 臨床心理士・浜松市発達相談支援センター「ルピロ」所長

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内山敏さん 臨床心理士・浜松市発達相談支援センター「ルピロ」所長

大人の視野を広げ、子どもの育ちを助ける 発達サポートの水先案内人

内山敏さん

子育てに戸惑ったり迷ったりした時は、専門家に相談することで近道や解決策がわかり、スッと道が開けることがあります。ザザシティ浜松の5階にある浜松発達相談支援センター「ルピロ」は、幼児期から成人までの発達の悩みを抱える人を専門家がサポートする施設として2008年に設立されました。そこで所長として指揮をとるのが、臨床心理士の内山さんです。ラフな服装に穏やかな笑顔で出迎えてくれ、固い肩書きからは想像できない柔らかい雰囲気です。内山さんはどのような経験を経て、現在の場所にたどり着いたのか。これまでの道のりと人となりを取材してきました。

中学校時代に出会い、夢中になった心理学の道

内山さんは北海道釧路市出身。実家は、お爺さんの代から家族で経営する和菓子屋です。家族が働いていたため、工場兼店舗にダンボールを置き、その中に座布団を敷いて寝かされているような環境で育ちました。工場の和菓子を持ち出し近所の人に配るなど、小さな頃から人を喜ばすことが好きな少年でした。

小学校時代は、なぜか友だちに相談をされることが多く、高学年の頃には「何と言ってあげたらいいのだろうか」と、相手の気持ちをより深く考えるようになります。中学3年のある時、友だちから「こんな本があるよ」と1冊の本を薦められます。それは精神分析の本でした。「夜見た夢をどんな風に意味づけるか?」といった無意識について考える内容が面白く、あっという間に夢中になります。学校では教わらない勉強の面白さに衝撃を受けたこの時が、心理学との出会いでした。

高校時代になると、心理学への情熱はさらに高まり、あらゆる関連書籍を読みあさります。ここでカウンセリングという言葉に出会い、2度目の衝撃を受けます。自分の好きな心理学を生かした仕事があると知ったこの瞬間、将来の夢がはっきりと決まったのです。その後、心理学を専攻するために宮城県の大学へ。そこで学業以上に力を入れたのが、アルバイトでした。多くの人に関わりたいと考え、接客業にこだわって働きました。居酒屋、焼肉屋、喫茶店、バーなど、いろいろな業界の人と話をすることで、机上で勉強してきたことを実経験に生かしていきます。同じ話をしても人によって受け取り方が違うことに気づき、どんなタイミングで声をかけると相手が心地良いのかと考えることで、他人を思いやるホスピタリティが養われました。

大学卒業後は、心理学を極めるため勉強と仕事を両立できる場所を探し、大学の先輩からの紹介で出会ったのが浜松医科大学 精神神経医学教室でした。そこに籍を置きながら、一般精神科病院、認知症専門病院、依存症病院、児童精神科など色々な分野の病院で、20年以上現場経験を積みます。家庭では2人の子どもを育て、「子育てって親が思うようにうまくいかないこともあるし、モヤモヤすることもあるな」といった親の気持ちにも共感できるようになりました。

大切なのは利用者。あくまで子ども第一主義で

内山敏さん

そんな中、それまで診断がされづらかった発達障がいの早期サポートが重要視されはじめます。それに伴い、浜松市でも発達障がいに特化した相談支援センターとなるルピロが設立されました。名称は、“水先案内人”を意味する“le pilote=ル・ピロットゥ”に由来しています。内山さんは、このセンターの立ち上げから携わっています。長年心理学に関わってきた内山さんがいちばん大切にしていることは、利用者のための施設でありたいということです。どんな環境でも相談できるように、当時他になかった出張型カウンセリングや土曜開業を取り入れました。

心理士として心がけていることを尋ねると「なるべく選択肢を広げてあげたいと考えています。相談に来る時は、どうしていいかわからず視野が狭くなっている方が多いです。一緒に知恵を出し合い、自分で選択し、カスタマイズしてより良い道を進んでいって欲しいと思っています。だって、こうしたらいい、ああしたらいいと指示されるより、自分で選択していく人生の方が楽しいですもんね」と話します。発達障がいの子どもに寄り添っていくことは、すぐに答えが出るものではありませんが、今のベストを選択し明るい未来に繋げるための案内人というところでしょう。小学生の頃に親と相談に来ていた子が、20歳になって1人で相談に来ることもあったそうです。「立派になった姿を見られて嬉しかった」と、何よりも相談者の成長を願っているようでした。

子どもを取り巻く環境をどう変えていくのか

内山敏さん

内山さんは、子どもの気になる行動を変えようとするのではなく、親や先生といった周りの対応を工夫することで、結果的に子どもが暮らしやすい方向へ導くよう選択肢の提示やアドバイスをしています。周囲の大人の理解を深めるために、幼稚園や学校の先生方を対象にした研修や、企業からの相談依頼などにも出向いて、講演会やセミナーを行い環境作りに積極的に取り組んでいます。

若い頃は医学的分野、生物的分野など様々な見地から心理学を研究・勉強し、障がいの原因や診断名に注視していたそうですが、多くの相談者と関わるようになった今は「“障がい”とはある環境における生きにくさと捉え、どうやってその生きにくさを和らげて生活しやすい環境にしていくかがいちばん大事だと考えています。そのためには日本の子育ての環境や教育を変えていくことが必要。正解を教える教育ではなく、失敗も承知の上で、大人は見守りながら試行錯誤させなければいけないんですよね」と、子どもたちを取り巻く問題にも切り込みます。

内山敏さん

カウンセリングという枠を超えた広い視野は、心理士を目指して職業にしたわけでなく、好きを突き詰めていった結果に心理士があったという、バックボーンに由来しているのかもしれません。
醸し出す雰囲気は淡々と穏やかですが、そこには心理士として学問を追究していくことにとどまらず、現場へ出向き困っている子どもたちの代弁者として環境を変えていこうとしていく強い思いがあります。
子育て中は、発達の個人差や子どもの将来のことを考え、不安になることがあります。そんな時、子どもにとっていちばんの選択を一緒に探ってくれる内山さんは、長い道のりに明かりを灯すまさに水先案内人のような存在です。内山さんの目指す教育が、浜松の子どもたちの可能性を広げてくれるかもしれません。

取材・執筆/三浦 貴子

内山 敏(さとし)さん プロフィール

北海道釧路市出身。浜松市発達相談支援センター「ルピロ」所長。臨床心理士として浜松医大を中心に活動し、1997年国立病院機構天竜病院、2007年発達医療総合福祉センター、2011年より現職。小児発達学博士。

浜松市発達相談支援センター ルピロ
所在地:浜松市中区鍛冶町100-1 ザザシティ浜松中央館5階 
TEL 053-459-2721
URL:https://www.rupiro.com/

注)所属・肩書は取材当時のものです。

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