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山田大記さん 浜松こども基金代表

支えられてきたから今度は支える~勝負の先に見えたもの

浜松こども基金キックオフ会

プロサッカー選手として活躍し、ジュビロ磐田で長くチームをけん引してきた山田大記さん。2024年に現役を引退し、現在は「浜松こども基金」代表として地域の子どもたちを支える活動に日々奔走しています。舞台をサッカーのフィールドから地域へと移し、子どもに関わる社会課題に向き合う山田さんにこれまでの歩みと今の思いを伺いました。

支えられて育った「信じる力」の原点

浜松で生まれ育ち、浜松まつりのラッパ隊にも入っていたという生粋の浜松っ子。外で遊ぶのが大好きで活発だった少年は、通っていた幼稚園にあったクラブでサッカーを始めました。年長の頃には、ゲームで負けると涙を流すほどの負けず嫌いでどんどんサッカーにのめり込んでいきました。

初めて挫折を味わったのは中学2年の時。けがで試合に出られず苦しむ山田さんに、帰りの車の中で父がかけた言葉があります。

「人生には波がある。悪い時がずっと続くわけではないよ。上手くいかない時にどう頑張れるのかを見ている人は見ている。悪い時期にどう振る舞えるかが大事だよ。今は耐える時期なんだ。必ずいい方向に行くから」

体が小さくて試合に出られなかった時も、「体が大きくなってくれば今やっていることがちゃんとつながってくる」と子どもの未来への可能性を信じてくれた父。高校の進路選択で悩んでいた時は、自分で判断し選択した道を信じて見守ってくれた両親の存在は大きかったと言います。

「自分で選択できたことがその後の人生につながっている。だからこそ、子どもたちには『未来は自分で決められるし、自分の力で何かをつかみ取れる』ということを知ってほしいんです」

自身の経験が、子どもたちの未来を信じて支える現在の活動の原点になっています。

「たかがサッカー、されどサッカー」

夢を叶えて飛び込んだプロの世界。結果がすべての厳しい世界で、山田さんが学んだことは「やり抜く力」でした。

「夏休みの宿題は、後回しにするタイプでしたが(笑)、サッカーだけは好きだから情熱をもって続けられた。辛い時も諦めなかったのは自分で選んだ道だから。これはスポーツに限らずどんなことにも通じると思います」

その一方で、好きなことがあり、打ち込むものを持っている人にこそ忘れてはならない大切な視点がある、と言います。

「サッカーには勝ち負けがあり、上手い人が注目され、評価されがちです。でも、それはサッカーという競技の中での一つの基準でしかありません」

現役時代、山田さんの心に常にあったのは「たかがサッカー、されどサッカー」という言葉。プロになった途端、ちやほやともてはやされる違和感と、プロだからこそ持つ影響力の大きさ。この言葉には、その両方を忘れずにいたいという思いが込められています。

親として、地域の大人として~子どもたちに見せたい「大人の背中」とは

2児の父として、地域で子どもと関わる大人として、今の子どもたちは「多様な大人に出会う機会が減っている」と山田さんは感じています。
情報化社会が進み、多くの情報が得られるようにはなったものの、近所付き合いの中で生まれる偶発的な出会いは少なくなっている、と言います。そんな状況の中、大人は子どもにどう関わるべきか。

「大人が本当にやるべきなのは、自分自身が何かに挑戦する姿を子どもに見せることだと思っています。子どもに一生懸命取り組むことの大切さや努力することの大切さを伝えたいのであれば、自分も何かに挑戦する。それは大きなことでなくても小さなことでいいんです。子どもが挑戦していることに対して、『えらいね』『頑張っているね』と、子どもとの関わりだけで完結させるのではなく、大人自身も一人の人間として挑戦し続けること。その背中を見せることこそ、めぐりめぐって子どもにいい影響があるのではないか」と語ってくれました。

地域と向き合う中で見えた「支える」ということ~「浜松こども基金」設立へ

現役時代から学校や児童養護施設などに足を運んでいた山田さんは、小児病棟の訪問活動を行っていた当時のチームメイト、小川大貴さんと一緒に個人として活動するようになっていきました。やがて2人は活動の輪を仲間とともに広げ、2022年に小川さんが代表となり一般社団法人ReFrameを設立、2024年7月にはReFrameをNPO法人化し、並行して、現在山田さんは「浜松こども基金」代表として2026年の正式設立に向け準備を進めています。

「ReFrameの活動だけで本当に社会課題の解決になっているのか、自分たちだけでできることには限りがあるのではないか、と感じたんです」

そう話す山田さんは、「浜松こども基金」設立を目指す理由をさらにこう語ります。

ReFrameでの支援活動は、子どもや親御さんの笑顔、喜ぶ姿に触れることができ、やりがいも意味もあると感じています。しかし一方で、例えば、こども食堂で1食を提供しても、それだけでは生活困窮の根本的な解決にはならない。確かに10世帯くらいには「ReFrameがあってよかった」と思ってもらえるかもしれないけれど、必要とする人の数に到底追いつかない。さらに活動を続けている中で、地域の支援団体の多くが資金不足によって思いを実現できず、支援が必要な人に必要なサポートが届かないジレンマを抱えている。

こうした現実を目の当たりにした山田さんは、「自分たちが間に立ち、資金を集めることによって、支援団体を支える側に回れば、もっと多くの子どもに必要な支援が届くはずだ」と考え「浜松こども基金」の設立を決意しました。

浜松こども基金キックオフミーティング

「浜松こども基金」は、地域のNPO団体などが抱える資金や人手、発信力、つながりといった不足を補うために資金を集め、支援団体などに助成を行う中間支援組織です。

ひとり親家庭、生活困窮、ヤングケアラー、社会的孤立、病気、障がい、言語の壁などの子どもたちを取り巻く社会課題は複雑に絡み合い、深刻さを増しています。「浜松こども基金」は、こうした課題に取り組む団体や困難を抱える個人へ助成を行い、子どもたちが将来に向かって自立できるよう支えることを目指しています。地域のネットワークを生かし、多様な視点で困難を取り除き、支援を続けることで、子どもたちが夢をあきらめず、やりたいことに挑戦できる環境づくりを進めています。

そのためには、「埋まらない格差やなくならない社会課題がある中で、互いの違いを認め合い、つながり、『困った時はお互い様』と、当たり前に支え合える地域社会が必要だ」と言う山田さん。その支え合いの仕組みのひとつが「浜松こども基金」です。

すべての子どもたちが夢を持てる社会であり続けられるよう、サッカーで培った行動力を武器に、異なる分野への挑戦にかける熱い思いを持ち、山田さんは、自分の信じた道をまっすぐに歩んでいます。

子育て中のすべての人に伝えたいこと

地域の子どもたちの社会課題の解決に取り組むと同時に、山田さん自身も日々、2人の子どもの子育てに向き合っています。同じように子育てに頑張るすべての人に向けて、次のメッセージを届けてくれました。

山田さん

「まずはなによりも、ご自身をねぎらってください。子育てって本当に大変で、思うようにいかないし、時には反省することもあると思います。でも、頑張っていないお父さん、お母さんっていないと思うんです。子育てはなかなか褒めてもらえないことも多いからこそ、自分の頑張りを認めてあげてください。時間を取るのが難しいとは思いますが、時には自分の時間も大切にしてほしいなと思います」

同じ時代に子育てをしているからこそ伝えられるメッセージには、子育て中の人に寄り添う山田さんの優しさが、込められた言葉の一つひとつに表れていました。

山田大記さん プロフィール

浜松市出身 元プロサッカー選手
ジュビロ磐田 CRO(クラブ・リレーションズ・オフィサー)、浜松こども基金代表、NPO法人 ReFrame副代表
ジュビロ磐田 CROとして地域貢献活動を行うとともに、地域みんなで子どもを支える仕組みを整えるべく、「浜松こども基金」を立ち上げ、2026年の正式設立に向けて活動中
二児の父

取材・執筆/時田 祐子

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