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浜松っこ独自の伝統行事 30分間回泳
浜松市で50年以上も前から小学校5年生、6年生を対象に行われている、30分間回泳を知っていますか?
浜松市出身のパパ・ママ世代ならだれもが経験したことがあるこの行事ですが、他市町県出身者は「何それ?」と、一様に驚くようです。
全国的に見れば珍しいと言われるこの30分間回泳について、歴史や開催の様子、取り組むときに知っておきたいポイントを取材しました。
30分間回泳ってどんな行事? いつから始まったの?
「30分間回泳」は、毎年、夏休み7月下旬に行われます。昭和41年(1966年)に始まり、今年で53回目になります。
遠州灘をはじめ、多くの河川に囲まれた土地で育つ浜松市の児童に、水と触れ合う機会を増やし、万が一の水難事故から身を守る泳力と自信をつけさせたいためです。また、30分間を泳ぎ抜くという強い気力を育てるとともに、様々な泳法を組み合わせて泳ぐことを通して、技能と泳力の向上を図りたい、という目的から始まりました。(浜松市小学校体育連合理事長 中西聖司先生 談)
今年は、浜松市内の小学校97校、5・6年生合わせて7,266人が参加しました。
小学校での取り組み
では、子どもたちはどのように練習をして本番に臨んでいるのでしょうか。
小学校の体育の授業では、学習指導要領に基づき、低学年では水に慣れる、浮くこと、潜ることから始まり、中学年で背浮きやバタ足、高学年になるとクロールや平泳ぎなどの泳法と、続けて長く泳ぐことをねらいとするカリキュラムが組まれています。
30分間回泳は、「続けて長く泳ぐ」ことの延長として考えられ、5年生になると体育の時間に練習が行われます。しかし、授業時間は着替えや準備体操の時間も入れて45分。実際に30分間の練習をするわけにはいきませんので、授業内では5分間、10分間といった時間を区切り練習が行われます。
今年の30分間回泳に挑戦した5年生の土岐かりんちゃんは、もうちょっと練習しようと思い5年から小学校の水泳部にも入りました。水泳部は、小学校の代表選手として水泳大会に向けて練習をする選手コースと、泳ぎの得意不得意に関わらず30分間回泳の合格を目指す回泳コースがあります。回泳コースは、週4日、そのほとんどが30分間回泳の練習に費やされました。
先生は、「5分泳げるようになれば、10分泳げる!」「10分を乗り越えれば30分間できる!」と、応援の言葉をかけながら指導をしてくれたそうです。
最初の5分間の練習をした時には、途中で立ってしまった子もたくさんいたけれど、だんだんみんな長く泳げるようになってきました。
実録! 30分間回泳当日
さあ、いよいよ30分間回泳本番当日です。パパママ世代の頃は江ノ島水泳場で実施されていた30分間回泳ですが、平成21年度から、西区にあるToBiO(古橋廣之進記念浜松総合水泳場)に会場が移りました。
各学校の人数により、2~3つの学校が合同で泳ぐこともあるそうです。監視の先生がプール内に6人、プールサイドにも大勢いて監視体勢はバッチリ。子どもたちの緊張の様子もひしひしと伝わってきます。
30分間回泳のルール
基本は、とにかく足をつかずに、壁にふれずに泳ぎ続けることです。
クロール、平泳ぎ、背泳ぎを中心とした3泳法で、泳げれば望ましいですが、必ずしもこれらに当てはまる必要はありません。泳ぎに自信がある児童は、プールの内側を泳ぎ、泳ぎに自信のない児童はプールサイドの近くを泳ぐ。わざと深く潜って泳がない。周りを泳いでいる人の迷惑になるような泳ぎをしない。など、安全面に特に留意したルールがあります。
いざ本番! スタート
プールサイドに全員が並んだところでルールや注意事項を伝え、いざ本番! 大きなホイッスルの音でスタートです。みんなで一斉に左回りに大きく円を描くように泳ぎます。学校での練習の成果もあるのか、みんなの泳ぎ出しは好調。水の流れができる最初の3分ほどが山場のようで、実際、5分ほど過ぎるとほぼみんなスムーズに泳げているようでした。残念ながら途中で立ってしまった子は、先生の誘導でプールサイドに上がり、見学します。
あと10分 あと5分 ドキドキのカウントダウン
一方、観客席では、「うちの子大丈夫かな…」と手に汗握り応援する保護者の姿が。ドキドキしながら無事に30分が経過するのを待ちます。5分前、1分前、10秒前…とカウントが進み、ついに終了のホイッスル! 大きな拍手に喜ぶ子どもたち、安堵する保護者の表情がこれまでの頑張りを物語るようです。
こうして30分ごとに児童が目まぐるしく入れ替わり、会場は終始、大変な熱気に包まれました。
合格おめでとう! 歴代合格者は27万人超
合格した子には、新学期に日付と名前が書かれた合格証が配られます。また、浜松市小学校体育連合で管理している、歴代の30分間回泳合格者がすべて記名された名簿に名前が連ねられるそうです。50年も続けられてきたこの行事の伝統を深く感じました。
<30分間回泳に挑戦した子とママの感想>
夕飯は好物の寿司ケーキでお祝い☆
土岐かりんちゃん:とても広く、深いプールで少し溺れそうになったけど、先生の「残り10分」の声が聞こえて、頑張って泳ぎ切れてうれしかったです。夕飯は好物の寿司ケーキでお祝いしてもらえました。
かりんちゃんママ:無事に終わりホッとしました。私自身は小学校時代に経験していたこともあり、回泳についてはそこまで心配ではありませんでしたが、泳いでいる最中はどれが娘か分からず、なんだか見ていてぐったりしました。しかしどの子もしっかり泳いでいて感心しました。泳ぎ終わってかりんが私の顔を見たとたんに、「今夜美味しいもの頼むよ」と言ったので、笑ってしまいました。たくましく育ってくれたものだと思います。
クラス全員で合格できてよかった!
原口りこちゃん:深さが140cmもあるプールで泳ぐことが初めてで、とにかく深く、足がつかなくてびっくりしました。ですが回泳中はあまり疲れず、楽しく泳ぐことができました。私だけでなく、クラス全員で合格できてよかったです。
りこちゃんママ:小学校2年生の時まで全く泳げず、このままでは30分間回泳に合格できないかもと不安になり、週1回スイミングスクールへ通いました。私は旧浜北市民で30分間回泳を経験していないので、正直、30分も泳げるのかとても心配でしたが、私の心とは裏腹に、本人は授業でも毎回練習しているためか「余裕だよ!」と、自信満々に宣言していました。当日は会場の人の多さと熱気にびっくりしました。全員が自分の子どものような気持ちで「みんな頑張れ!」と応援しました。見事に30分間泳ぎ切ってくれて感動しました。
30分間回泳を意識して準備できることは? 合格のためのポイント
30分間回泳は、学校でも練習する時間を取ってくれますが、やはり合格できるか不安な子は多いことでしょう。対策としてスイミングスクールに通うのもひとつの方法ですが、もちろん通わなくても合格することはできます。
30分間回泳をクリアするためのポイント、意識しておきたいことを浜松市北部水泳場職員の宮澤一道さんにうかがいました。
(1)泳げない子は、ゴーグルを付けて水に親しませる
30分間回泳を泳ぎ切るには、まず水の中で泳げることが前提になりますが、水が怖くうまく潜れない子もいます。そこで、例えば家のお風呂ででもゴーグルを付けて潜り、水への恐怖心を取り除くといいです。水の中でジャンケンをしてみるなど、ゲーム感覚で水の中を楽しめるようになるとよりよいと思います。小学校入学前の小さい時期からでもできるのでオススメです。
(2)しっかりと呼吸をする
長く泳げない子は、頭をうまく上下できず、呼吸が浅くなってしまいます。体の力を抜いてまっすぐ浮く姿勢をキープし、頭をしっかりと動かしてゆっくり吐く、ゆっくり吸う、を繰り返しましょう。
(3)平泳ぎまたは背泳ぎで泳ぐ
クロールは体の動作が大きく、疲れやすいです。背泳ぎか平泳ぎで、動作をゆっくり、大きくして、体力を温存しながらチャレンジするのがおすすめです。
<北部水泳場の30分間回泳練習用プール開放>
北部水泳場では、毎年30分間回泳の本番前に、練習用にプール開放をしています。今年は7月17~20日の4日間行われました。通常営業終了後の17時から18時までの1時間、小学校4~6年生が対象です。
練習の流れとしては、17時から15分間は準備運動とウォーミングアップの時間です。17時15分になると、一度監視員の元に集合してから、練習をスタートします。本番を想定して5分ごとに監視員がカウントします。流水プールで行われるため、抵抗が少なくスムーズに泳ぎ出せるようです。途中で立ってしまっても、続けて泳いでOK。時には少し監視員がアドバイスすることもあります。
4年生から参加できるので、次年度に備えて子供の泳力の確認や、本番のイメージトレーニングにもよいと思います。
取材を終えて
体力面も精神面も成長させてくれる、浜松市ならではの一大イベント
私が20数年前に30分間回泳を経験した時には、夏休みも学校のプールが毎日のように開放され、スイミングスクールに通う友達も少なく、特に30分間回泳について特訓した記憶はありません。自分が親になった今、周囲では子どもをスイミングスクールに通わせているという話をよく耳にします。
「スイミングに通わないと合格できないの?」と思ってしまうママもいるかもしれませんが、実際は毎年合格率が97~98%と、ほとんどの児童が合格するそうです。最初は泳ぎが苦手な子でも、体育の授業や回泳部で先生が熱心に教えてくれることもあり合格し、そのことによってチャレンジする気持ちや自信が芽生えるなど、メンタル面の成長も感じられます。
第50回のときに、来場者に感想用紙を配布した際、その感想の中には、子どもたちに対する励ましの言葉、30分間回泳に対する温かい言葉や賛同する意見が多数見られ、30分間回泳がいかに有意義な大会であるかということを再確認することができたそうです。私も今回の取材を通し、改めて30分間回泳という行事の奥深さを感じました。この先も変わらず浜松市ならではの30分間回泳を続けていってほしいと心から思いました。
取材・文/和久田南香