子連れでおでかけ
子育てのヒント
特集記事
子育てのヒントを検索
<音楽の都>の浜松っ子たち 演奏する楽しさを伝えたい 浜松ジュニアジャズオーケストラ"Swing Kids"

浜松では、春に浜松ジャズ・デイ、秋にハママツ・ジャズ・ウィークが開催され、街中のいたるところでジャズミュージシャンたちの熱演が繰り広げられる。そんな中、大人たちに混じって堂々とした演奏を披露していたのが、小中学生を中心としたジャズ・ビックバンド、浜松ジュニアジャズオーケストラ“Swing Kids”だ。ジャズといえば渋い大人の音楽というイメージを抱きがちだが、彼らはなぜジャズをやろうと思ったのか、いったいどんな集まりなのか。「<音楽の都>の浜松っ子たち」第四弾の今回は、そんな疑問を探るべく、Swing Kids講師代表の松井千秋さんとメンバーの子どもたちに話を伺ってきた。
浜松に、小中学生のビックバンドを!
団体の結成は、2014年。高校の吹奏楽部の指導を行っていた前代表が「浜松には10以上の社会人ビックバンドがあるのに、小中学生のバンドがないのはおかしい!」との思いから立ち上げ、結成した。講師陣は9名で、演奏活動を行う現役のジャズミュージシャンたちだ。現在講師代表を務める松井さんも、勤務先の楽器メーカーの吹奏楽団やジャズバンドで演奏していたつながりで参加し、その後代表を引継ぎ、今に至っている。
それぞれの楽しみ方でできればいい
現在Swing Kidsには、小学4年生から高校生までの24名が在籍している。イベントでの演奏を見て興味を持ったり、友達の紹介だったりといろいろなきっかけで入ってくるが、楽器経験がない子や、譜面を読めない子、「ジャズってなに?」という子も多い。中にはやりたい楽器が決まっていないこともあり、そういう場合は毎週違った楽器を体験してもらい、本人の希望で決めるという。今までにも、経験のあるピアノから始めたが、トランペットを経て最終的にテナーサックスになったという子もいたそうだ。松井さん自身も、楽器ごとの練習ではサックスを教え、全体の合奏ではトロンボーンを吹き、さらに本業はコントラバスを弾くという多才ぶりだ。それぞれの楽器の魅力を知っているからこそ、どれか一つに捉われず、まずはやってみてほしいという柔軟さにつながっているのではないだろうか。
バンドで使用する楽器は、寄付してもらったものや市の補助金等を使って購入したものが一通りそろっている。個人でレンタルや購入することを考えると高額なため、バンドのものを使わせてもらえるのは親としてもありがたい。松井さん自身も自分の楽器は持っているが、「楽器は使わないとだめになっちゃうから」と、メンテナンスも兼ねて活動の時はバンドの楽器を吹くようにしている。

子どもたちに指導する上で大事にしているのは、「音楽や演奏そのものの楽しさを伝え、それぞれの成長を認めてあげること」と松井さんは言う。そのため子どもたちに譜面の読み方や楽器の吹き方、本番での段取りなど演奏に必要なことは教えるが、演奏の内容など細かいことは教えない。ジャズ独特の裏拍を取るスイング感は、曲を演奏しながら体で覚えていくそうだ。またジャズの醍醐味といえば即興演奏(アドリブ)。ビックバンドのソロパートで挑戦する子もいるが、「アドリブは自分で身に付けていくものだから、こうした方がいいなどは言わない」そうだ。自らの経験もふまえた音楽との関わり方が、松井さんの子どもたちに寄り添う姿勢に表れている。「楽器や音楽がやりたくて来ているのに、厳しく指導したりできなくて叱ったりすると音楽が嫌いになってしまう。もっとやりたいなら自分でも練習する。プロになりたいとかでなければ、できることをやればいいし、それぞれの楽しみ方でいいんじゃないかな」。
部活でもない、習い事でもない、子どもたちの活動
毎週土曜日の午前中に行っている練習をのぞかせてもらうと、その様子がよく分かった。前半の楽器ごとに行うパート練習では、まず吹いてみよう、やってみよう、という感じで講師も一緒に吹く。子どもたちも、「わかんない、できない」と素直に言える和気あいあいとした雰囲気だ。後半は、大きな部屋に集まっての全体練習。現在はメンバーが足りないため講師も加わって演奏をしているが、子どもたちにとってはそれが心強いそうだ。講師はほとんどが50~70代で小中学生にとっておじいちゃんくらいの世代だが、子どもたちは”先生”ではなく”松井さん”などと名前で呼ぶ。「講師の皆さんは、子どもたちを決して子ども扱いせず、大人と同じようにフラットに接してくれるのがすごくいい。子どもたちにとっては、演奏したい自分たちを応援して、ほめてくれる存在で、子どもたちも皆さんが大好きなんです」と練習を見守っていた保護者が教えてくれた。

実際に参加している子どもたちは、Swing Kidsでの活動をどう感じているのだろうか。ギターの道喜多恵さん(中学2年生)は加入して2年になるが、「ギターがうまくなり、みんなで一緒に合わせられると楽しい」という。アルトサックスの鈴木遥さん(中学3年生)は、サックスを吹きたくてYouTubeを見てジャズが一番かっこいいと思い、入団。「最初は人見知りもあって不安だったけど、講師のみなさんも先輩たちもやさしくてフレンドリーで、すぐに打ち解けられた」のだそうだ。 学校の部活動は上下関係が厳しかったり練習がきつかったりという話も聞くが、Swing Kidsのメンバーは学校も学年も入団時期もバラバラなため上下関係もなく、友だちというより週に1回会う仲間という感覚が近い。講師たち大人が一緒にジャズを楽しもうと子どもたちにフラットな姿勢で接していることが、子どもたちの安心感や関係性につながり、居心地の良さを作っているのだろう。
活動は、あくまでも学業や部活動、家族の時間を優先するというのが基本だ。取材当日も受験シーズンだったため、何人かが試験などで休んでいた。無理のない範囲で活動してもらうため本番が続く時などは必ず保護者の承諾を得てから進め、講師の一存で決める事は決してないという。また練習後の清掃は、子どもたち自身が行う。学校や教室の先生が主体となって行う部活動や習い事とは異なり、 “自分たちの活動”という意識があるそうだ。
呼吸するように音楽を楽しむ

入団は中学生までだが、中学卒業後も参加を続ける子やきょうだいで一緒に演奏する子がいる一方、中学のうちから社会人ビックバンドに入る子もいるそうで、子どもたちがそれぞれのペースで音楽を楽しんでいる。
「音楽は生活の一部。呼吸するのと同じように楽しめば、一生できる」
松井さんのこの言葉は、ジャズミュージシャンとして活動している講師たちをよきお手本として、子どもたちにしっかりと伝わっていると感じた。
今回の取材では、学生時代に先生や先輩の厳しい指導の下、とにかく上達を目指して辛い練習を耐え抜いていた世代の筆者からすると、子どもたちの意思を尊重したスタイルが新鮮だった。世代を越えて音楽を楽しむSwing Kidsの活動は、私たち大人にとっても<音楽>の楽しみ方について考えるヒントになるだろう。
ジャズのおもしろさは、一期一会のセッションだ。その場にいるもの同士が互いの音を聴き合いながら、個性あふれるハーモニーを作る。「音楽を、ジャズを楽しみたい」と集まった子どもたちの奏でるジャズが、<音楽の都>浜松のこれからを、さらに彩っていく。
文/高田まどか
取材日/2026年1月24日


