くまくんはおうちの庭で、おはなさん、すずめさん、ねこさん、いぬさんに、「こんにちは」とあいさつをしながら、だんだん通りへ出て行きます。そして、ぎゅうにゅうやさん、しんぶんやさん、ゆうびんやさんと、会う人ごとに「こんにちは」とあいさつをして、ぐるっとひとまわりして家に帰ります。家に帰っておかあさんにあいさつをすると、「かわいいかわいい」とだきあげてくれ、おとうさんも「やあ、こんにちは」とだきあげてくれます。ストーリーはたったこれだけです。
でも、小さな子どもに読んであげると、実によくできたストーリーだということがわかります。くまくんがはじめにあいさつをするのは、いつも家のおうちの庭で出会っている植物や動物です。そこから通りへ、いわば「社会」へ出て行き、ぎゅうにゅうやさんに会います。くまくんは「ぎゅうにゅうやさん　こんにちは」とあいさつをします。しんぶんやさん、ゆうびんやさんも同様です。
きっと、この大人たちは、いつもくまくんのおうちに新聞や牛乳や郵便物を届けてくれる人たちなのでしょう。そして、おかあさんはそのたびに「こんにちは、ありがとうございます」とか「こんにちは、お世話をおかけします」ってあいさつをしているんでしょうね。毎日の暮らしのなかで、くまくんのおかあさんがこの大人たちと良い関係にあること、だからくまくんもこの人たちを好きで信頼していること、この大人たちもくまくんことを「かわいいぼうやだね」なんて思っているらしいことが伝わってきます。そんな中で育ったから、通りで会ったとき、勇気をもって「こんにちは」と言ってみたのでしょう。文章には書かれていませんが、絵からは、どの大人もしっかりくまくんを見て、笑顔であいさつを返してくれていることがわかります。
うれしくなったくまくんは、おうちに帰ると、その勢いでおかあさんにも「こんには」とあいさつをします。このときのおかあさんがまた素敵です。間違っても「こういうときはただいまっていうのよ」なんて言いません。「かわいいかわいい」って抱きあげます。
子どもが大きくなって、はじめて自分で自分の世界を広げようとしたとき、その意欲と成功の鍵を握っているのは、親の愛情とその親が築いた人間関係なんですね！
絵本は、子どもだけでなく、大人にもいろいろなことを発見させてくれます。絵本って奥が深いんですよ！

文／子どもと絵本ネットワークルピナス代表　松本なお子さん