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ヘムロック山のくま

8歳のジョナサンは、両親と3人でヘムロック山のふもとに住んでいます。ヘムロック山は、実際は低い丘でしたが、誰かがここをヘムロック山と呼ぶようになり、いつしかみんなが「山ごえ」「ヘムロックごえ」と言うようになっていました。

春は近いのに、まだまだ雪が残っているある日、ジョナサンは大きな鍋を借りるため、ヘムロック山の向こう側に住むエマおばさんの家をひとりで訪ねることになりました。ヘムロック山にはくまがいるといううわさがありましたが、ジョナサンはもちろん、お母さんだって実際にくまを見たことはありません。もし万が一いたとしても、まだ冬眠中でしょう。日が暮れる前に帰ってこられるよう、ジョナサンは急いで出かけました。ところがジョナサンはひとつ失敗をしてしまいます。おばさんの家で牛乳を飲み、クッキーを食べて火のそばで温まっているうちに、すっかり眠り込んでしまったのです。鍋を持っておばさんの家を出た頃にはもう暗くなりかかっていました。

さて、ヘムロック山には本当にくまがいたでしょうか?いたのです。ジョナサンはまさに帰り道でくまと遭遇してしまいます。けれども、大きな黒いかげが近づいて来た時、ジョナサンはとっさに最善の方法で切り抜けました。大きな鍋をさかさまにして雪の上に置き、雪を掘ってその中にもぐりこんだのです。

その後、お父さんたちが迎えに来て、ジョナサンは無事に家に帰りました。ひとりでヘムロックごえをやってのけたという晴れ晴れとした様子で。著者紹介の欄には、ペンシルバニア州で人々に語りつがれていた話を元にしたとあり、古き良き時代を思わせる情景です。くまがいるかもしれないのに、8歳の子どもをひとりでおつかいに出すなんて、今の大人は驚いてしまうかもしれません。でも、おはなしを聞いている子どもたちは、ジョナサンと一緒に小動物と戯れながら雪道を進み、おいしいクッキーを味わい、くまの息が聞える程の距離で身を潜めながらドキドキし、重要な任務をやってのけたという満足感に浸ります。

残念ながら、この本は現在では絶版になっていますが、そういう本こそ図書館をご利用ください。絵本ではありませんが、適度に挿絵もあり、読んであげれば5~6歳くらいから楽しめます。

この紹介文を書いている最中に、訳者のひとりである松岡享子さんの訃報を知りました。児童文学の創作や翻訳により、子どもたち(子どもだった大人たち)に素晴らしい体験をさせてくれただけでなく、私たち図書館員にとっては指針でした。心からご冥福をお祈りいたします。

文/浜松市立中央図書館 島野陽子

紹介した絵本

ヘムロック山のくま

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