クローズアップ「ひと」

村上節子さん 浜松ものがたり文化の会【前編】

2011年8月31日

子どもの内面に寄り添い、生きる力を引き出す 浜松っ子の応援団長

村上節子さん

浜松市西区、住宅街の一角にある、小さな家庭文庫「ぴよぴよ文庫」。主宰の村上節子さんは、“子ども”と“お話”にかかわる活動の場づくりをして40年。 みんなのお母さんのような存在です。 その一方で、宮沢賢治の童話を題材に活動する“ものがたり文化の会”を主宰し、子どもたちによる実験的な舞台づくりを行う“人体交響劇”を指導しています。 少女のような声と穏やかな笑顔、柔らかな雰囲気の持ち主。ですが、話してみるとその印象は覆り、強い愛と反骨精神の人だということがわかります。
 

悩みがあっても、受け入れる“人”の存在を感じて

ぴよぴよ文庫

浜松市西区大人見町。静かな住宅街の一角で、村上さんの自宅を開放した家庭文庫「ぴよぴよ文庫」。ぽかぽかと陽が射しこむ畳の部屋には、絵本や児童 書がいっぱい。子どもたちは、ここでお気に入りの絵本を見つけてきては、座ったり寝転がったり、思い思いの場所で本を読んでいます。

この場 では子どもたちばかりでなく、親たちも村上さんを頼ってくることがよくあります。その多くは、子育ての悩み相談だそうです。 浜松は、転入者が多い土地柄です。身寄りがいない土地で、育児の悩みを誰にも相談できず孤独なまま悩む親たちの話に、村上さんは耳を傾けます。

「お母さんたちからの悩み相談は、子どもが思春期になると増えますね。“おはなしひろば ぴよぴよサークル”を卒業した子のお母さんたちも、10年 後に悩み相談に来ることがあります。思春期以降の悩みって、聞いてくれるところがなく、悩みも複雑化するから、ほんとつらいわね。私はカウンセラーという より“話し相手”ってのがいいみたい」 状況はひとりひとり違うとしても、いつかはトンネルから抜ける日が来ます。だから、『そんなに追いつめられなくてもいいんだ』と安心してほしくて、悩みの 聞き役をしているといいます。

「浜松の人って、ひとを受け入れる包容力をもっていると思います。田舎だけどオープンで、“ムラ”的ではない し、“お客さん”扱いじゃなくて“受け入れる”っていう体質があるから」 これはそのまま、自宅を家庭文庫として子どもを受け入ている、村上さんご本人に当てはまることではないでしょうか。

(写真:「ぴよぴよ文庫」の小さな陶製の看板)

豊かな自然体験が、子どもたちの感覚を磨く

人体交響劇

村上さんが40年にわたって活動を続けてきた、浜松というまち。これほど長く継続できたことについて、 村上さんは、この地が子どもに与えてくれるものの大きさを知ってほしい、と話します。 「子どもたちにとっては、自然体験が豊富であればあるほど、物語の世界に入りやすいの。今の子どもたちは忙しすぎて友だちと遊ぶ暇もなく、遊ぶ相手はゲー ム機などの無機物でしょう。でも、浜松って、まだまだ豊かな自然が、すぐそばにありますものね」

“浜松ものがたり文化の会”では、舞台の準 備として、物語に出てくる森羅万象について学ぶ時間をたっぷりと持ちます。例えば、物語中でおしゃべりをする鉱物たちのことを知るため、みんなで天竜川に 行き、石集めをしたこともあります。 「天龍川って、すごいのよ。日本で見つけられる、ほとんど全ての石を見つけられるんですってね!」と、村上さんは瞳を輝かせます。

確かに浜松には、自然と交感して描かれた宮沢賢治の童話世界を理解するのにふさわしい環境――天竜川の清流、沢蟹などの生き物、深い森や空いっぱいの星な ど、自然の美しさが残されています。そうした自然に、市街地からもそれほど移動せず触れられることは、子どもたちにとってはかり知れない影響を与えていると言えるでしょう。

(写真:宮沢賢治の童話を劇として表現する「人体交響劇」(※2)の舞台)