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小児のCOVID-19

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の出現から3年が過ぎました。この危機に対して世界は総力を挙げて研究を行い感染対策がなされ、病気の特徴が解明されるとともに、治療薬やワクチンが開発されました。ここでは、現時点における子どもの COVID-19 に関する知見をまとめて紹介します。

小児のCOVID-19

1.ウイルスと子どもの関係

発生当初、子どもの COVID-19 患者はかなり少ないことが話題になりました。これは、まだ感染者が少なく大人同士の接触で感染が広がっていった時期であったことと、同じように接触しても子どもが感染するリスクは半分程度であったことが理由にあげられています。しかし新型コロナウイルス(SARS-CoV2)は頻繁に変異を繰り返し、そのなかで過去の感染によって得られた免疫を逃れる能力のあるウイルス、あるいは増殖の速いウイルスが選ばれてきた結果、感染しやすさは大人と子どもとで差がなくなりました。そればかりかウイルスは子どもでより増えやすく、ほとんどの子どもはワクチンを接種していなかったことから、1年前にオミクロン系統が出現して以降は、子どもの感染者の割合は大人より多くなりました。2023年1月現在、県内の10歳未満の子どもの37.9%、10歳代で 30.6%が既に COVID-19に感染済みと試算されています。実際の感染者は 1.5倍程度多いことが血液を用いたウイルス抗体検査から示されているので、子どもの4~5割は既に感染している可能性もあります。このオミクロン系統のウイルスは鼻やのどを中心に増えるので、症状も発熱、咽頭痛や咳が目立ちます。また子どもが感染した場合は、吐き気、熱性けいれんの症状多い事もわかってきました。国内の小児死亡例をまとめた 2022年12月の報告では残念なことに 61 名が死亡し、約半数は生来健康なお子さんであったことが記されています。

また、コロナ禍にともなって受診を控えたり、感染して受診が出来なかったりすることで、より重い病気の診断が遅れることがあります。虫垂炎、糖尿病、白血病も、発熱・嘔吐・倦怠感などの症状があり COVID-19と見分けがつきにこともあります。何かおかしいと思った場合、0歳のお子さんや基礎疾患がある方、ぐったりしている、下痢や嘔吐があり、おしっこが出ない、けいれんがある、ぼーっとして反応がない、呼吸が速い、息が苦しそう、といった症状がある場合は早めの受診が必要です。

2.LongCOVIDについて

COVID-19に感染した後に、数か月にわたって症状が続く方がいて、longCOVID と呼ばれるようになりました。大人の場合は、嗅覚・味覚の異常、咳が長く続くことが多く、様々な症状をあわせると感染した方の2~3割にものぼるとされています。子どもの longCOVID患者の割合は4~5%程度と大人より少なく、多くは思春期のお子さんです。COVID-19の初期の発熱やのどの痛みなどは1-2週程度でおさまりますが、long COVID 患者は頭痛、腹痛、倦怠感が数週間にわたって続くことが多いようです。この倦怠感も3か月から半年ほどかけて和らいでいきますが、その影響はこころや生活にも及んで、うつ、摂食障害や不登校につながることもあります。残念ながら今の時点で LongCOVIDに対する特効薬はありませんが、このような状態になったお子さんたちをサポートしていくことは可能です。あらゆる疾患は、身体・こころ・周囲の環境が影響して症状の重さが決まっていきます。病院に受診した場合は、身体の病気がないかをまず調べて、悪い影響を与えている原因を一つ一つ解消しながら、長い時間をかけて悪い連鎖を断ち切っていくことになります。要因や症状はさまざまなので、個別に対応する必要があります。

3.治療薬

新らしい治療薬を開発するためには長い時間と莫大な投資が必要で、多くの場合は開発の途中で頓挫します。COVID-19については短い間に複数の薬剤が開発承認されてきた驚異的な状況です。それでも、流行初期には他の目的で使
われている多くの薬の応用が試みられました。BCG、イベルメクチン、アビガンといった薬も有効性がないことがわかり候補から消えていきました。実験室でウイルスが増えるのを抑える効果があった喘息吸入薬のシクレソニドも、大人を対象とした検討でむしろ COVID-19を悪化させることがわかり、中断されました。

そのなかで SARS-CoV2を中和する抗体製剤が複数登場して、重症化を防ぐことが確認されましたが、変異ウイルスが登場すると効果発揮されなくなりました。この1年になり、ウイルスが増えるのを抑える内服薬が登場してきました。パキロビッド®、ラゲブリオ®などは重症化のリスクの高い大人に使った場合に、死亡するリスクを下げることが確認されました。また、軽症患者に対してはゾコーバ®は症状消失までの時間を1日短縮させる効果が認められています。ただ、12歳未満の子どもに対して臨床研究はまだ完了していない為、現時点では子どもに一般的に推奨される抗ウイルス薬はない状況です。

4.ワクチン

国内で12歳未満の子どもに使用可能な新型コロナワクチンはメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンで、主にファイザー社製のものが使われています。打つべきか打たざるべきかについては多くの議論がなされてきました。ほとんどの子どものCOVID-19はほどなく治りますが、もともと健康でも重症化する場合もあって多くのお子さんが入院してきています。静岡県のデータでは0-4歳のお子さんの入院率は 1.4%で、60歳代の大人と同じくらいです。ワクチンの長期的な影響を心配する方もいますが、ワクチン未接種で感染した場合にはlongCOVID のリスクが高まります。いずれほとんどの人が感染することを考えると、現実的な対抗手段はワクチン以外なく、私自身は積極的に勧めています。

大前提として、子どもの場合もワクチンは重症化防止に役立ちます。ワクチン接種によって救われた多くの命を肌で感じることは出来ませんが、数字上は2021年だけで世界では2000万人が命拾いしたことがわかっています。5~11
歳の子どもにワクチンを2回接種すると入院するリスクを40~70%減らせるとことがわかっています。また、生後6か月~4歳未満の子どもへの3回接種で80%近い感染防止効果があることがわかっています。残念ながらウイルスは変異していきますし、ワクチンの効果は時間とともに下がっていきますので、接種をしても感染してしまうことはあります。それでも一番の目的は重症化を予防することで、これについてはもう少し長い期間効果が期待できます。勿論、ワクチンには接種後1、2日の発熱や倦怠感などの副反応がありますが、子どものワクチンの有効成分量は大人と比べて5~11歳用で3割、6か月~4歳用で1割と少なく、副反応もかなり少ないことがわかっています。

私たちの日常生活にも大きな影響を与えてきたCOVID-19ですが、歴史上の各種パンデミックに対しても人はしぶとく対抗してきました。明日はより良いことを信じて今できることをやっていきましょう。

浜松医科大学小児科学講座 宮入烈

出典:浜松成育医療学講座通信 第5号(2023.2)

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