子連れでおでかけ
子育てのヒント
特集記事
子育てのヒントを検索
<音楽の都>の浜松っ子たち「浜松で弾けてよかった!」を目指して 浜松国際ピアノコンクールボランティア代表 佐藤康代さん
浜松の秋は、やらまいかミュージックフェスティバル、ハママツ・ジャズ・ウィークと大きな音楽イベントが毎週のように開催され、いつにも増して街中に音楽が響き渡る。そして2024年は3年に1度の浜松国際ピアノコンクールの年。11月になると世界各国から出場者が浜松に集まり、秋の深まりとともに卓越した演奏が繰り広げられる。
この浜松国際ピアノコンクールは行政や協力企業などに加え、多くのボランティアの協力のもと、運営されていることをご存じだろうか。「<音楽の都>の浜松っ子たち」第三弾は、20年以上にわたりボランティアとして浜松国際ピアノコンクールを支える佐藤康代さんにお話を伺った。
自然と広がる笑顔の輪
佐藤康代さんに初めてお会いした時の印象は、「この人になら、いろいろと話しかけてわからないことを聞いてしまうだろうなぁ」というものだった。
佐藤さんにインタビューをしたのは、浜松国際ピアノコンクールのボランティアがコンクール会場のアクトシティに一同に集まり、仕事の説明を受ける研修会の後。会場内を少し歩く間にも、多くのボランティアが「ひさしぶり!」と佐藤さんに声をかけ、会話が弾む様子が見られた。
佐藤さんは1997年に開催された第3回大会から今回の第12回大会まで、毎回ボランティアとしてコンクールに携わっている。言うならば、「浜松国際ピアノコンクールボランティアの大ベテラン」だ。英語とスペイン語を話すことのできる佐藤さん、コンクールのボランティアも、自身の語学を活かせたらとの思いで参加した。
「もともとは、HICE(浜松国際交流協会)の語学ボランティア仲間に誘われたのがきっかけです。それから20年以上続いています」
「ボランティアで大変だった記憶はないです。大変ならボランティアは続かないですから(笑)回数を重ねれば重ねるほど仲間が増えて、楽しいですね。また、浜松国際ピアノコンクールは3年に1度の開催なので、『3年ぶりだね、6年ぶりだね』と再会を喜びあえるのもいいですね」
佐藤さんにとって浜松国際ピアノコンクールは、出会いの場、仲間と再開し絆を深め合う場となっているようだ。そうしてたくさんの仲間ができ、佐藤さんのまわりには、多くの笑顔があふれている。
ボランティアの存在なくして語れない、浜松国際ピアノコンクール
浜松国際ピアノコンクールについて調べてみると、これまでの入賞者には世界的に活躍するピアニストが何人も名を連ねる、大変ハイレベルなコンクールだということがわかる。コンクールが近づくと日本のみならず、世界各国から予備審査を通過した約80名のピアニストが浜松に集まり競い合い、そしてその演奏を聴きに、多くの音楽ファンも浜松にやってくる。2021年に開催されるはずだった第11回大会は新型コロナで中止となったため、実に6年ぶりの開催。出場者だけでなく、観客や審査員、ボランティアを含むスタッフも今年の開催を心待ちにしているだろう。
そんなコンクールを陰に日向に支えるのが、約100名のボランティアたちだ。ボランティアには、観客の誘導やチケットのもぎりなどを担う「ホールスタッフ」、出場者の通訳や会場案内などをする「出場者アテンドスタッフ」、そしてタイムキーパーなどの審査員の補助をする「審査員アテンドスタッフ」がいる。ボランティアが実に様々な業務を担っていることがわかる。
実は浜松国際ピアノコンクールの実行委員には、浜松市長をはじめとする行政代表者や浜松の政財界代表者と並び、「ボランティア代表」として佐藤さんの名前が連なっている。仙台や高松など、浜松以外の地方都市でも国際ピアノコンクールは開催されているが、実行委員に「ボランティア代表」がいるコンクールは浜松以外、ほとんど見当たらない。浜松国際ピアノコンクールが、いかにボランティアを頼りにし、大切にしているかの表れだろう。
浜松に足を踏み入れるときから舞台を降りた後まで
佐藤さんのボランティアとしての役割は「出場者アテンドスタッフ」。佐藤さんによると、その仕事は出場者が浜松駅に降り立ったところから始まるそうだ。
まずは浜松駅で出場者を出迎えてアクトシティまで同行し、受付や説明の補助をする。本番までの練習室の管理や、出場者がコンクールで使用するピアノを選ぶ際にも付き添う。もちろん、本番当日の受付や会場の案内、舞台への誘導も大切な役目だ。まさに「浜松駅から舞台袖まで」、出場者のありとあらゆる通訳や補助をするのが、出場者アテンドスタッフだ。
ボランティアの日の仕事は朝から晩まで、「家に帰ったら休むだけです」と佐藤さんは笑って話す。
コンクール本番後も佐藤さんたちの出番は続く。スクールコンサートでの通訳だ。浜松市では、残念ながら予選敗退となった出場者のうち、希望者が浜松市内の小中学校で演奏する、スクールコンサートを実施している。佐藤さんたちボランティアはここにも同行し、出場者と児童生徒や先生との通訳をする。
「コンクール後のアテンドのほうが気楽かな?」と話す佐藤さん、出場者の中にはまさに人生を賭けるほどの意気込みでやって来る人もいる。練習時や本番前はピリピリするが、それでも佐藤さんたちは、出場者に演奏以外のことで負担をかけないよう、気を配っているそうだ。
佐藤さんは長年のボランティア経験を買われ、前回の10回大会でボランティアスタッフのとりまとめも担った。コンクール期間中はできるだけ事務局にいるようにし、ボランティアスタッフが困っているときに気軽に質問できるようにしたそうだ。
「ボランティアでもわからなくなるのが、アクトシティ内の案内です。練習室はホールとは別の階にありますし、そもそもアクトシティの構造が複雑ですからね(笑) そんなときは、長年続けているコーラスでアクトの舞台に立った経験が生きています」
こうした佐藤さんのボランティアスタッフへの配慮や助言はボランティア全体の仕事の質に直結し、ひいては出場者や観客への対応向上につながる。出場者にとってもボランティアスタッフにとっても、「佐藤さんに聞いてみよう」が、コンクールの成功に向けた小さな積み重ねになっているのだろう。
「浜松に来てよかった」を目指して
最後に、佐藤さんに浜松国際ピアノコンクールに対する思いをうかがった。
「出場者に『浜松で良い演奏ができた、演奏しやすい場所だった』と思ってもらうことが一番です。出場者にとって、そして彼らを支えるボランティアスタッフとして一番残念なのは、説明が伝わらなかったり勘違いしたりして、遅刻などのつまらない理由で失格になってしまうこと。そういったことがないようサポートするのが、私たちの役目です。出場者本人の体調など、私たちではどうしようもできないこともありますが、すべての出場者に全力を出し切って演奏してもらいたいと思っています」
日本語や日本の生活様式に不慣れな出場者にとって、演奏に集中できるよう語学などのあらゆる面でサポートを受けることは、質の高い演奏を披露するうえで重要だ。それは浜松国際ピアノコンクールの更なる充実につながり、出場者や審査員はもちろん、観客も満足できるものとなり、コンクールのレベルアップにもなるだろう。
いよいよ始まる第12回浜松国際ピアノコンクール。佐藤さんをはじめとするボランティアスタッフに感謝を込めながら、一人の音楽ファンとして演奏を楽しみたい。
文/藤田麻希子
取材日/2024年10月5日