クローズアップ「ひと」

渡邊修一さん NPO法人サステナブルネット代表

2014年10月16日

男性のひとり親が、肩肘張らず他人とつながれる場づくりをしたい

渡邊修一さん

全国にひとり親家庭は約131万世帯。うち約15%、19万世帯が父子家庭です(平成25年厚労省調べ)。支援が行き届きづらい父子家庭を主な対象とした相談事業などを行う「NPO法人サステナブルネット」を立ち上げた渡邊さん。自身もひとり親として二人の子どもを育ててきた経験から、「父子家庭への支援はまだまだ遅れている」と語ることばには実感がこもります。

誰にも頼れなかった、父親ひとりの子育て

渡邊修一さん

15年前、離婚により小学生の姉妹を一人で育てることとなった当時の渡邊さんは、会社員として働いていました。「実家も遠く、ひとり親支援についての情報も無く、誰にも頼れないと思っていました」と当時を振り返ります。
定時に帰って晩ご飯を作ることなどできないばかりか、1週間にもおよぶ出張を命じられたり、子どもがインフルエンザにかかったりと、ひとり親には難しい事態が次々と起こり、その都度仕事か家庭か苦渋の選択を迫られました。そして、直属の上司からは「再婚相手はいないのか?」と再々訊ねられたことも、精神的に辛いことでした。『働く男性にはサポートする妻がいなければならない、そうでなければ一人前の仕事はできない』という圧力が感じられたからです。
家庭と仕事、綱渡りのような生活が続き、ついには体調を崩して退職。その後は転職を重ねつつ、仕事と生活のバランスが保てる働き方を探りました。そして平成22年、それまで仕事で扱っていた緑化土木資材のスキルを活かして「NPO法人浜松緑のカーテン応援団」を立ち上げ、緑化事業に取り組むようになりました。自らが主催する団体なので、以前よりも働く時間をコントロールしやすくなりました。

活動

その後、浜松市男女共同参画審議委員会の委員になった渡邊さんは、笹原恵氏(社会学者・静岡大学情報学部教授。専攻はジェンダー論)と知り合ったことから、ジェンダー(社会的・文化的性差)について学び、さまざまな気づきを得ました。
「平成22年、やっと男性のひとり親に児童扶養手当が支給されるようになりましたが、それまでは支給されなかったのです。母子家庭は経済的に困窮しているが、父子家庭はそうではないということが前提とされていた。でも実際は、各家庭で事情は異なるんですよ。それも含めて、行政のひとり親支援にはジェンダー格差があると感じました。そして、『いつかは父子家庭支援の活動をしたい』と思うようになりました」
平成26年に団体名をNPO法人「浜松緑のカーテン応援団」から「サステナブルネット」に改称し、JTの助成金などを受けて本格的に父子家庭支援プロジェクトを始めました。

会社が変わるのを待っていられない。自分が変わろう

活動

渡邊さんの例に限らず、現代の日本で仕事と家庭のバランスを保つのは困難なこと。父親と母親の役割を同時に担うひとり親であれば、なおさらです。

「ひとり親になってからも、ふたり親の時と同じ働き方をしていては、子どもが犠牲になるのは免れないでしょう。それでも、ひとつの会社にしがみつく働き方をする人が多数派です。職を失い、貧困に陥ることへの恐怖がそうさせるのでしょう。近年、社会構造が変化してワーク・ライフ・バランスということも言われるようになりました。でも、自分が勤める会社も社員のワーク・ライフ・バランスを大切にする会社に変わるだろうと期待しても、変わる保証はありません。私のような働き方がベストだとは言いませんが、会社が変わるのを待つよりも、自分の働き方を変えていく方が先だというのが実感です」

渡邊さんから見て同世代以上の男性には、まだまだ「男は仕事、女は家庭」という“常識”が根強く残っていると感じるそうです。ですが、ジェンダーについて学んできた渡邊さんは、その“常識”の無意味さを理解しています。

「明治時代の“男尊女卑”から続く日本の性別役割分担は、社会的に刷り込まれているだけだということに気づくべきです。外部から与えられた価値観を、自分の価値観だと思い込んでいるだけなのです。本来は男女問わず、ひとりの人間の中に父性も母性もあるはずです。自分自身は、かけがえのない人生の中で何を一番大切にしたいのか? 仕事人でありたいのか、家庭人でありたいのか。まずは、それをよく考えることからスタートしたいですね」

経験してきたからこそ、当事者の心情が理解できる

活動

渡邊さんの活動の根底にあるのは、自ら困難を味わってきたという当事者意識。だからこそ、当事者以外による“ひとり親支援”は当事者の心情を理解していないものが多く、残念だと言います。例えば、ひとり親同士の結婚を推奨するプロジェクトもそのひとつ。
「ひとり親同士が結婚すれば、数字の上ではひとり親は減るでしょう。でも、再婚してできたステップファミリーには、また別の悩みも生まれてくる。単にひとり親家庭の数が減ればいいという発想では、何の解決にもなりません」 両親は揃っていなければならないという価値観は、そうでない人には圧力となって息苦しさを与えます。両親が揃っていなければ、子育てを楽しむことはできないのだろうか?と、渡邊さんは疑問を投げかけます。

では、ひとり親、特に支援の少ない男性のひとり親に対して、どのような支援を行うことがよりよいサポートになるのか? 渡邊さん自身も、試行錯誤の途上にあると言います。
「相談会や交流会などへの参加者は、まだまだ少ないのが現状です。男性のひとり親が公の場に出てくるのは、心理的ハードルが高いのでしょう。男性の傾向として、弱音は見せたくない、だから相談なんてしたくない。金銭的サポートは必要でも、メンタルなサポートは不要だと(自分で)思っているのです」
かくいう渡邊さん自身も、若い頃はそう思っていました。でも、本当はそうじゃないはずだ、と渡邊さんは考えます。

つながりを求め、一歩踏み出す勇気を応援したい

活動

「父子家庭に対して行ったアンケートの回収率の高さから見ても、彼らは自分たちの置かれた状況を誰かに“聞いて欲しい”と思っていることは確かです。それには、当事者同士がゆるやかなつながりの中で何でも話し合える場を持つことが有効です。全て一人で頑張ることが必ずしもいいとは言えません。他人に悩みを話し、弱みを見せることで救われる場合もあります。たとえ参加者が少なくても、こうした事業は必要だと思うので、今後も続けていきます」
実際、ひとつの交流会に参加した男性のひとり親が、今度は情報提供者として次の交流会に参加する、といったつながりが、小さいながらも芽生え始めているそうです。

「うちのように男性のひとり親支援を行う団体は全国的に見ても珍しいので、モデルケースになれればいいと思って活動しています。来年度に向けて企画している事業がいくつかあるので、まずはそれを形にしなければ」
自分がひとり親として子育てした頃に味わったような苦労は、次の世代に味わって欲しくない――その想いを胸に活動の方向性を探る渡邊さんですが、子育て中のひとり親に対しては、もっと主体的でいてほしいという願いもあります。「状況を変えたければ、まずは自分から人の輪の中に出ていきましょう。人とのつながりを求めて自ら『最初の一歩』を踏み出す、そんな人を後押ししたいんです」
渡邊さんが思い描く“ひとり親同士のゆるやかなネットワーク”は、一歩一歩、形になろうとしています。

◆渡邊修一(わたなべしゅういち)さん 略歴◆

NPO法人サステナブルネット 理事長。父子家庭歴15年。平成22年にNPO法人浜松緑のカーテン応援団を立ち上げ、26年、NPO法人サステナブルネットに名称変更。今年度からJTの助成金を受けて本格的にひとり親支援を始める。

(2014年10月2日にインタビュー 談:渡邊修一さん 取材・文 ぴっぴ 寺内美登里)