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アトピー性皮膚炎の予防と治療

浜松成育医療学講座通信

目次

1. アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎はかゆみを伴う慢性的な皮膚の炎症(湿疹)です。アトピー性皮膚炎の診断基準は国や地域によっていくつかありますが、いずれの診断基準にも「かゆみ」が必須であることが特徴です。つまり、かゆみがないアトピー性皮膚炎は無いということです。かゆみによって勉強やクラブ活動に集中できない、夜間の眠りが浅く授業中に眠くなるなど日常生活が妨げられます。
また、特に小児期には経皮感作の原因となることも非常に重要です。経皮感作とは、湿疹などの炎症のある皮膚を介して抗原(食べ物やダニなど)と接することで、その抗原を「悪いもの」と誤って判断してしまいアレルギーになってしまうという考え方です。実際に、乳児期に湿疹があるお子さんは、無いお子さんに比べて食物アレルギーになりやすいという研究が多数あります。

2.アトピー性皮膚炎の予防

アトピー性皮膚炎を予防することはできるのでしょうか。アトピー性皮膚炎を予防するために様々な研究がおこなわれてきました。その中で有名なものが、生まれて間もない時期から赤ちゃんに保湿剤を塗るというものです。
2014年に発表された日本の研究では、生まれてきた赤ちゃんを2つのグループに分けて、一方のグループには赤ちゃんの皮膚の乾燥に関わらず毎日保湿剤を塗り、もう一方のグループは赤ちゃんの皮膚の乾燥が気になった時だけ適宜保湿剤を塗りました。結果は生後8か月の時点で、毎日保湿剤を塗っていたグループが適宜塗っていたグループと比較して3割程度アトピー性皮膚炎の発症が予防されました。
しかしながら、2020年に海外で行われた2つの大規模な研究では、いずれも生まれて間もない時期からの保湿剤の塗布はアトピー性皮膚炎の予防効果が認められず、現時点で保湿剤ではアトピー性皮膚炎の予防は困難であると考えられています。
その他、腸内細菌を整えてみたり、ビタミンDを内服してみたり、妊娠中や授乳中の食事を工夫してみたり、多くの研究が行われていますが、残念ながら科学的根拠が強いアトピー性皮膚炎の発症を予防するは現在1つもありません。今後、さらなる研究が期待されます。
しかし、近年の研究でアトピー性皮膚炎を発症しても、早期にしっかりとした治療を行うことで食物アレルギーを予防できることが日本の研究分かりました。アトピー性皮膚炎自体の予防が難しくても、痒い湿疹が出てきた時に早期に適切な治療をすることが重要です。

3. アトピー性皮膚炎の治療

スキンケア薬物療法悪化要因の対策がアトピー性皮膚炎の治療の三本柱として重要です。それぞれについて説明していきます。

<スキンケア>

スキンケアとは簡単に言うと、汗や皮脂汚れ、黄色ブドウ球菌のような細菌は、アトピー性皮膚炎の悪化要因であるためそれらを排除しましょうということです。
しかし、スキンケアにおいて、石けんで「洗う」ことがどこまで大切かについてはほとんど研究がされておらず、エビデンスがありません。そこで浜松医科大学附属病院に通うアトピー性皮膚炎の患者さんたちに協力してもらい研究を行ったところ、石けん洗浄はアトピー性皮膚炎のコントロールに良くもなく、悪くもないという結果でした。石けんを変えると湿疹が良くなったり悪くなったりする人がいることも事実です。
一方、シャワー浴については、学校でシャワー浴を導入したり、夏に追加したりすることで湿疹が改善するという日本の研究がいくつかあります。

<薬物療法>

アトピー性皮膚炎に対する塗り薬で中心となるものがステロイド軟膏です。
ステロイド軟膏は炎症を抑える力によって5つの群に分けられます(I群が最も強く、V群が最も弱い)。一般的に顔にはIV群、体はIII群を使うことが多いですが、年齢や、湿疹の重症度に応じて、適宜強さを調節します。

図 ステロイド軟膏の種類と強さ

ステロイド軟膏の種類と強さ

ステロイドというと、副作用を心配される方も少なくありません。インターネットでステロイドの副作用について調べると本当の情報もあれば、間違った情報も多くみられます。
また、飲み薬と塗り薬では副作用も異なり、インターネットに載っている情報の多くは飲み薬についてです。
ステロイド軟膏の塗り薬による本当の副作用には、皮膚が薄くなる、皮膚線状(妊娠線のようなものが太ももやおしり、ひざにできることがあります)、部分的に毛深くなる、血管が拡張する、にきびができやすくなる、などがあります。
しかし、いずれも高頻度に長期間使用したときに生じるもので、後述のプロアクティブ療法のように週に2日以下の頻度にすることで防げるものです。ステロイド軟膏の副作用を怖がって塗らない方が網膜剥離、白内障、成長障害などデメリットは多いです。
また、よく誤解される副作用に「ステロイド軟膏を塗ると皮膚が黒くなる」、「ステロイドが体に蓄積される」、「ステロイド軟膏はリバウンドする」などがあります。このような記載のあるサイトやインスタグラムはアトピービジネスが関係している可能性もありますから見ない方が良いでしょう。

薬物療法


塗り薬の正しい量はとても重要ですが、意外と知られておりません。乳児であれば全身に塗る場合は、1回で約5g(チューブ1本分)が適切と言われております。

図 fingertip unit

fingertip unit

1 fingertip unit(FTU)という考えがあり、人差し指の第一関節まで出した軟膏で手のひら2枚分の範囲を塗りましょうというものです。
この話をすると、多くの方が「そんなにたくさん塗るのですか?」と驚かれます。それだけ正しい塗る量を知っている方は少ないということです。


適切な強さのステロイド軟膏を適切な量、1日2回塗ると、湿疹は速やかに改善します。それでは、改善してつるつるになった後はどうすればいいでしょうか。ずっとステロイド軟膏を塗っていると先ほど述べた通り、副作用が出てきます。

ステロイド軟膏の減らし方には「リアクティブ療法」と「プロアクティブ療法」というものがあります。
リアクティブ療法とは、見た目の湿疹が良くなったらステロイドを塗るのをやめるやり方です。この方法でお肌の調子が良ければいいですが、ステロイド軟膏を塗るのをやめた途端にまた悪くなってしまう
場合があります。そういった方には、プロアクティブ療法というやり方がお勧めです。プロアクティブ療法とは、つるつるになってからもステロイドを塗るのを完全に止めず、間欠的に塗り続ける方法です。
週に2日のステロイド軟膏であればステロイドの副作用が出ないことが分かっています。つまり、週に2日はステロイド軟膏、5日は保湿剤で調子が良ければ最初のゴールに到達ということになります。
その先、ステロイド軟膏をどこまで減らせるかはもともとの体質やこの後の悪化要因の対策にもよります。

図 リアクティブ療法とプロアクティブ療法

リアクティブ療法とプロアクティブ療法

また、最近では下表のようにステロイド軟膏ではないけれど炎症を抑える力のある新しい塗り薬も発売されております(プロトピック(R) 、コレクチム(R) 、モイゼルト(R) 、ブイタマー(R))。
これらの塗り薬は、ステロイドと比較すると効果は弱いですが、うまく活用することでアトピー性皮膚炎のコントロールが容易になる場合があります。

表 新規外用薬の種類と特徴

商品名 プロトピック(R) コレクチム(R) モイゼルト(R) ブイタマー(R)
一般名 タクロリムス デルゴシチニブ ジファミラスト タピナロフ
適応年齢 2歳以上 年齢制限なし 年齢制限なし 12歳以上
デメリット 刺激感がある   アトピー性皮膚炎で他剤形なし 適応年齢が上
メリット

目薬あり
10年間の大規模安全試験有り

別の内服剤形でも副作用が少ない 処方量の制限なし 1日1回でよい
発売年 1999年 2020年 2022年 2024年

 

<悪化要因の対策>

アトピー性皮膚炎の悪化因子は、ダニ、カビ、細菌、ペット、汗などなど、1つではありません。
その中でもペットはアトピー性皮膚炎に大きく影響します。いったん飼い始めたペットに対する対策は限られています。犬の主要なアレルゲンは水に溶けやすい性質があります。ペットのシャンプーの回数を週に2回くらいに増やす、絨毯や布製ソファーは廃棄するか、water based cleanerなど掃除機の変更をしたり、水拭きも併用するなどの対策はできます。これは同時にダニ対策にもなります。また、ダニの舌下免疫療法もアトピー性皮膚炎に効果があるのではないかと報告されています。

悪化要因の対策

 

4.学校とアトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎の治療として抗ヒスタミン薬が処方されているケースがあります。小学校中学年以上になると、抗ヒスタミン薬の種類によっては、抗ヒスタミン薬の副作用で眠くなってしまい授業中の居眠りの原因になることもあります。アトピー性皮膚炎で夜眠りが浅いだけでなく、薬の副作用という可能性があります。ステロイド軟膏等で湿疹をコントロールすれば、アトピー性皮膚炎のために眠気のある薬を飲む必要はほとんどの場合無くなってしまいます。授業中に居眠りをする子がいたら、アトピー性皮膚炎のコントロールや、抗ヒスタミン薬(花粉症のために飲むこともあります)を工夫すれば、その子の成長を助けられる可能性もあります。

アトピー性皮膚炎と注意欠如多動症(ADHD)については、関連が指摘されている研究結果がいくつかあります。しかし、ADHDとされていたお子さんがアトピー性皮膚炎をしっかり治療したらADHDでは無かったということも報告されています。また、ADHDのためにアトピー性皮膚炎の治療が難しくなっている場合もあります。こだわりがある場合には、そういった特性を利用して「決まった時間に決まったやり方でリズムを作る」ことで治療がうまくいくことがあります。

長年不登校だったお子さんが、アトピー性皮膚炎の治療で湿疹が改善したことで通学できるようになるケースも経験します。正しい治療で湿疹が改善することで、その子の人生も大きく変わる可能性があります。夏のプールの塩素でアトピー性皮膚炎が悪化するお子さんも散見されます。プールに入った後はしっかりとシャワーでプールの水を流すことが重要です。

学校とアトピー性皮膚炎

5.最近の話題

最近では、塗り薬だけでなく、注射薬や飲み薬など、様々な種類の治療薬が出てきています。これらの治療薬は全身療法と呼ばれており、効き目はとても良いです。しかし、全員に対して最初から勧められる治療ではなく、正しくアトピー性皮膚炎と診断され、治療の3本柱ではなかなかコントロールが難しい方々が対象となります。また、高額である、やめるタイミングはいつ?などの問題点もあります。
アトピー性皮膚炎の治療は10年前と比較して選択肢も増え、飛躍的に進歩しています。今後も新たな治療薬が登場することが予想され、さらなる進歩が期待されます。

6.Q&A

Q. 目の周りの湿疹にステロイド軟膏を塗っていいですか?

A. 塗って構いません。ステロイド軟膏による副作用には緑内障がありますが、ステロイド軟膏をしっかり塗布すると1週間ほどで湿疹は改善するため、長期的に塗布する必要はなく緑内障になるケースはほぼありません。むしろ、目の周りの湿疹に対してステロイド軟膏を塗らないことで網膜剥離や白内障のリスクが増します。花粉症の時期で長期的な湿疹のコントロールが必要な場合は、プロトピック(R)やモイゼルト(R)などを使用すると良いでしょう。

Q. 口角が切れて治りません。どうすればいいですか。

A. 顔は一般的にIV群のステロイド軟膏を用いますが、III群にして1日10回程度塗ります。つるつるになったら1日2回に減らして7〜10日間、毎日継続します。その後中止します。

Q. 睾丸や陰茎、陰唇、乳首の湿疹にステロイド軟膏は塗ってもいいですか?

A. 塗っても大丈夫です。睾丸や陰茎は一般的にはIV群のステロイド軟膏を用いますが、III群にして1日2回、2週間と決めて継続して中止します。乳首はIII群かII群を1日2回塗布し、腫れが無くなってからさらに毎日2回塗布を1-2週間継続し中止します

Q. 手湿疹が治りません。

A. II群のステロイド軟膏を1日5〜10回毎日塗ります。プニプニに軟らかくなったらII群を1日2回にして2週間毎日続けて終了してください。

7.おわりに

今回はアトピー性皮膚炎について、予防、治療の観点から紹介させていただきました。「アトピー性皮膚炎は治らない」、「よくならない」と思われているかたもいらっしゃるかと思います。しかし、適切な治療を行うことで、日常や学校生活の質を大きく改善できる可能性があります。また、上述したように最近では新しい治療も次から次へと登場しており、10年前とは比較できないほど治療の幅が広がっています。「アトピー性皮膚炎だからしょうがない」とあきらめる前に、医療機関への相談をしていただければと思います。

おわりに

 

浜松医科大学浜松成育医療学講座
犬塚祐介

出典:浜松成育医療学講座通信 第13号(2025.10)

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