クローズアップ「ひと」

村上節子さん 浜松ものがたり文化の会【後編】

2011年8月31日

感受性の強い子ほど、学校で生きのびることが難しい

共同制作の絵本

村上さんは、現在の社会で子どもたちが置かれている状況に心を痛めます。
「学校って、子どもにとっては、すごくきつい場所ですよね。子どもひとりひとり、みんな違うんだもの、学校に合わないって子も当然いるよね。よく頑張って行ってるなあ、と思うの。優しい子、繊細な子、感受性の強い子であるほど、学校という場で生きのびるのは大変なのよ」

村上さんの心は、どこまでも子どもの内面に寄り添おうとします。大人社会が子どもに突きつける評価や判断とはまったく違う次元で、子どもを理解し、受け止めます。それも、ただ甘やかすのではありません。“自分で感じ、考える”という行為に自信をもたせようとします。
「物語を読みこんだり解釈したりするとき、答えはまず自分で調べてみなさい、自分で表現を考えてきなさい、って言うの。なんでもいいから自分なりの思った ことを言いなさい、『わかんない』は無しよ、って。だから、ここの活動のほうが学校より、よっぽど厳しいよねえ」と、村上さんは笑います。「でも、そうやって育っていかないと、学校の先生の言うことだけ聞いて育った子は、学校出てからが大変よ。まずは自分の頭で、精いっぱい感じた事や思ったことを言えば いいんです」

(写真:共同制作の絵本。中学生男子が「むしゃくしゃして描きなぐった」紙を、仲間のみんながちぎって貼りつけ、絵を作った)

子どもが解放され自分自身になれる“魂の水飲み場”

人体交響劇

「ものがたり文化の会」のテューター(指導者)としての村上さんは、とても厳しい態度です。本気で子どもを叱り、違う事は違うと、はっきり伝えます。それゆえ、子どもとの距離が近いのです。

子どもの集団は幼児からから高校生・大学生まで、大家族のような雰囲気です。ひとりの演出家が全て決めるのではなく、場面ごとに違う子に責任を持たせ、みん なで見せあって作ることもあります。だから、舞台の内容は、本番直前まで変わりつづけます。ここでは、どの子も本音で自分の考えを言います。

こうした場だから、何らかの問題で学校に行けない状態の子どもも、活動に加わってきます。そして、みんなと活動するうちにその子の中で何かが解放され、学校に行けるようになったケースもあります。
「(学校に戻れた理由は)本当のところはわからないけれど、このままの自分でOK、って思えたんじゃないかしら」

学校・塾・部活以外の居場所、子どもが自分自身を表現できる“第三の場”が必要だと村上さんは言い、それを“魂の水飲み場”と表現します。
「あったかくて、のびのびできる場、いつでも帰ってこられるところがあれば、子どももがんばれるでしょ。毎日つらくても、『仲間もいるから、またあと一週間がんばってみようか』って、そういう場であってほしいわね。暗い顔してここに入ってきた子も、帰る時には、バイバイ!って明るい顔で帰ってく。そういうのがうれしいんです。」

こうして出来上がった舞台は、毎年3月に発表されます。まっすぐに自分の感性で表現する子どもたちのよろこびがまぶしい、斬新で実験的な舞台です。この舞台をまとめあげるためには、ただ受容するだけではない強靭なパワーが必要であることは間違いありません。
1982年当時、静岡県ではただひとり「ものがたり文化の会」を発足したという村上さんの中に、まぎれもない浜松人の気質「やらまいか精神」を見ることができます。

(写真:宮沢賢治の童話を劇として表現する「人体交響劇」(※2)の舞台)

育った子たちの生き方が、私へのごほうび

村上節子さん

そんな村上さんも、活動を始めた頃は、「自信も何もなかった」と言います。「私自身にまだ子どもがいない頃から活動していましたから、きっと、いろんなことがわかってなかったんですね。でも、私自身もこの活動の中で子どもを育て、自分の育児が終わってからも、さらに何年か続けていくうちに、思えるよ うになったんです。ここから育った子達って、いい生き方してるな、って」

村上さんが考える、いい生き方とは? さまざまな人とかかわりながら連帯してやっていける力=コミュニケーション力をもった大人、そして表現力をもち、自分の想いや考えを表現できる大人である、ということだそうです。

「ものがたり文化の会」出身の子たちは、大人になってからも舞台に協力出演したり、成人式や結婚式のたびに村上さんに連絡してきたりします。まるで子どもや孫 がいっぱいいる、大きなファミリーのお母さんのような村上さん。それを村上さんは「何よりの私へのごほうび」だと言います。
「想像力と創造力、そ して人とつながれる力。大事なことは、それだけなの。私がやっているのは、そのことに気づいてもらうための、ちょっとしたお手伝い。40年間やってきて、 そのことを力まずに伝えられるようになったから、今が最高だって思っています。これからも、必要としてくれる子がいれば、やっていければいいなぁ。『がんばらにゃ!』って気張るんじゃなくて、自然体でね」

◆村上節子さん プロフィール◆

1947年 静岡県袋井市生まれ。
物語の表現による子どもの英語自然習得活動の指導や、家庭文庫の主宰などの活動を経て、1982年「ものがたり文化の会」発足に応じて浜松支部を立ち上げる。

  • 「ぴよぴよ文庫」主宰
  • 子育てサークル「おはなしひろば・ぴよぴよサークル」主宰
  • 「浜松子ども文庫のつどい」会員
  • 「宮沢賢治童話に親しむ会」代表

※1) ものがたり文化の会
詩人・作家・教育運動家である谷川雁氏の呼びかけのもと、1982年に発足。体験学習「万有学」、「人体交響劇」などの個性的でユニークな活動を行う全国組織。静岡県では1982年に、村上節子さんが主宰して「村上パーティ」が発足した。

※2) 人体交響劇
宮沢賢治の童話をそのまま身体の動きと言葉で表現する劇。おはなしを語る「言語班」、登場人物や風景などを現す「視覚班」、物語の深いところにいる目に見えないものを表現する「聴覚班」の3つに分かれて表現する。3つの班は交代しながら全部を経験する。ひとつの劇の中で主役や脇役といった固定的な役割はなく、誰もがいろいろなものを演じるところが特徴。

(2011年8月31日にインタビュー 談・村上節子さん
舞台写真提供:シンプリィ・ショップさん/コーディーさん
取材・文 ぴっぴ 寺内美登里)

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