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インフルエンザ~正しく理解して、備えましょう~
目次
- はじめに
- 1. インフルエンザは普通の風邪とどう違いますか?
- 2. 新型コロナウイルスのようにインフルエンザウイルスには色々な種類 があるのですか?
- 3. インフルエンザの流行は新型コロナウイルス後にどのように変わりましたか?
- 4. インフルエンザに罹るとどのような症状が出ますか?注意したほうが良い症状や合併症はありますか?
- 5. インフルエンザはどのように診断されますか?
- 6.陰性証明書や治癒証明書などの証明書が必要ですか?
- 7.どのような治療が行われますか?
- 8.ワクチンの予防効果はどの程度ですか?
- 9.ワクチンの効果はどれぐらい続きますか? 毎年接種したほうがよいのでしょうか?
- 10.ワクチンの副反応は?
- 11.鼻に投与するワクチンが開発されたと聞きました。どのようなものですか?
- 12.感染対策として有効な手段について教えてください。
- 13.出席停止期間と学級閉鎖の効果について教えてください。
- おわりに
はじめに
インフルエンザは大変多くの人が罹ったことのあるお馴染みの感染症ですが、子どもの場合は大人と少し異なることがあります。最近は流行時期が変わったり、新しい薬やワクチンが登場したりしています。正しく理解して、備えましょう。
1. インフルエンザは普通の風邪とどう違いますか?
ウイルスに感染し、咳や鼻汁症状が出る点は風邪と同じです。インフルエンザの場合、38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、倦怠感などの症状が比較的急速にあらわれるのが特徴です。子どもの場合、まれに急性脳症を起こします。
2. 新型コロナウイルスのようにインフルエンザウイルスには色々な種類があるのですか?
インフルエンザウイルスはA型とB型が有名ですが、実はC型、D型も存在します。ただ、C型は症状が軽く流行も起こさず医療機関で検査ができませんし、D型は動物に感染するもので普段耳にすることはないでしょう。この中で一番問題となるのはA型です。インフルエンザウイルスはヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という2種類の蛋白を持っていますが、A型インフルエンザウイルスはその組み合わせで多数の「亜型」が出現する可能性があります。その中で人での流行が現在確認されているのは、1968年に発生したH3N2と2009年に発生したH1N1の2つです。亜型ウイルスが新たに出現した場合は、誰も免疫をもっていないため、世界中で多数の患者や犠牲者を出すパンデミックを起こすことになります。また、同じ亜型であっても少しずつ遺伝子が変化していくため、毎年のように感染する可能性もあります。B型には亜型が存在しませんが、長い年月に変異を繰り返し、大きく2つの系統に分かれています。したがって毎年の流行は起こりえますが、パンデミックを起こす可能性は低いです。このような遺伝子の変化の影響でその年のインフルエンザワクチンが効かないことがあります。
3. インフルエンザの流行は新型コロナウイルス後にどのように変わりましたか?
日本ではインフルエンザは12月から3月まで冬季に流行してきました。毎年1000万人程度が感染し、その大半が子どもでした。しかし新型コロナウイルス流行後は新型コロナ対策の影響で感染者数が激減し、2020/21年、2021/22年の2シーズンにわたって日本ではインフルエンザの流行がほとんどありませんでした。2022年7月頃にオーストラリアで3年ぶりの大流行があり、それを契機に日本でも2022年11月から流行を迎えました。2023年から2024年にかけては季節外れの春夏にインフルエンザが流行しました。2024年から2025年にかけては例年の通り冬の流行が予想されています。
4. インフルエンザに罹るとどのような症状が出ますか?注意したほうが良い症状や合併症はありますか?
一般的な症状
インフルエンザウイルスは鼻の粘膜に感染し、感染初期は鼻汁、咳という通常の風邪症状とともに突然38℃以上の発熱があります。それらに加えて、全身倦怠感、関節痛、筋肉痛を伴います。一般的な経過として発熱が2~3日続き、その後自然に治ります。
注意した方が良い症状、合併症
(1)ウイルス性気管支炎、肺炎
発熱や咳が数日経過しても改善がなく、逆に悪化する場合に疑われます。通常のインフルエンザの症状に加え、呼吸する時に苦しそうな症状が出ます。また気管支から肺に感染が及ぶため、痰が絡んだような咳が出るようになります。A型インフルエンザウイルスのうち、H1N1の亜型は肺で増殖しやすく肺炎を起こす可能性があります。そのような症状があれば、医療機関への受診が必要です。
(2)脳症
インフルエンザ脳症はインフルエンザウイルスによる代表的な合併症です。症状は通常のインフルエンザの症状に加えて、けいれんや意識がない状態が続きます。その前の症状として、両親のことが分からない、食べ物でないものを食べる、幻視や幻覚、奇声や呂律(ろれつ)が回らないなどの異常がみられることもあります。年間100~300人が発症し、死亡に至る割合は7~8%、後遺症を残す割合は15%程度とされています。主に5歳以下の乳幼児にみられ、成人での発症は非常にまれです(小児100万人あたり約3人、成人100万人あたり約0.2人)。インフルエンザ感染に伴う免疫反応によるものと考えられています。合併症に関して、2009年の新型インフルエンザが大流行した際に、小児死亡例の解析がなされています。小児では37%が急性脳症で死亡しており、インフルエンザ脳症による死亡者割合が多いということがいえます。(図3)
(3)2 次性の細菌感染症(中耳炎、肺炎)
インフルエンザウイルスに感染すると、肺炎球菌などの細菌の感染が起こりやすくなります。ウイルス感染の症状が治った後、4~14日程度のちに細菌性の中耳炎や肺炎を起こす可能性があります。耳の痛みや耳垂れがある、一時良くなったが咳がまた悪化し、呼吸が苦しいなどの症状が出ることがあります。そのような症状が出たら医療機関を受診してください。
注)新型インフルエンザ:2009年に新型インフルエンザA/H1N1が発生し、世界的大流行を起こしましたが、多くの人が免疫を獲得したことから、2011年には季節性インフルエンザとしての扱いに移行しました。
5. インフルエンザはどのように診断されますか?
流行状況、症状、身体所見からインフルエンザを疑った場合に、インフルエンザウイルスを検出するための検査を行って診断されます。
最も一般的に行われているのは迅速抗原検査です。鼻に専用の綿棒を入れて鼻の奥の粘膜を擦(こす)り、その検体を用いて検査キットで診断します。検査の感度(インフルエンザウイルスに実際にかかった患者で検査が陽性になる割合)は50~70%、特異度(インフルエンザウイルスにかかっていない患者のうち、検査が正しく陰性と判断できた割合)は98%程度で、10分~15分で検査結果が判明します。感度を上げて見逃しを減らすためにはしっかり擦るようにとること、発熱から24時間程度は経過することが大切です。
もう 1 つの方法はPCR検査です。迅速抗原検査と検体の取り方は同様です。感度と特異度は100%に近く、検査機器によっては45分で結果が出るので一般の医療現場でも導入するところが増えています。感度が高いので見逃しは少ないのですが、2カ月前の感染でも陽性と出てしまうことがあり注意が必要です。このように、検査は万能ではないので、インフルエンザと診断された方と濃厚接触があり、医師の診察からインフルエンザで間違いないと判断できる場合は、検査をせずにインフルエンザと診断することもあります。
6.陰性証明書や治癒証明書などの証明書が必要ですか?
医学的には必要がなく、医療機関の体制がひっ迫する原因となるため、厚生労働省は治癒証明書を求めないように各団体に呼び掛けています。
7.どのような治療が行われますか?
国内には5種類の抗インフルエンザ薬があり、いずれもインフルエンザウイルスの増殖を抑えますが、患者ごとに使い分けています。吸入ができる患者ではイナビル®やリレンザ®、内服薬としてはタミフル®(5日間内服)、12歳以上であれば1回内服するだけのゾフルーザ®も勧められています。内服が出来ない患者には点滴のラピアクタ®が使用されます。治療は原則としては発症後48時間以内に開始する必要があり、そうすることで解熱までの期間を早めることが確認されています。ただし、重症化リスクのある小児には48時間以上経過していても投与することがすすめられています。その一方で自然に治癒する疾患ではあるので、抗インフルエンザ薬を使わずに様子を見ることは可能です。
なお、かつては異常行動(注)と薬剤の関係が疑われたため注意喚起がなされていましたが、その後の調査で薬剤との因果関係はないことが確認されています。抗インフルエンザ薬投与の有無に関わらず、インフルエンザでは、就学期以降の小児・未成年者での異常行動が確認されていますので、保護者は注意してみる必要があります。
注)インフルエンザの異常行動
インフルエンザにかかったときには、飛び降りなどの異常行動をおこすことがあります。特に発熱から2日間は注意が必要です。異常行動の例としては、「突然立ち上がって、部屋から出ようとする」「ベランダに出て飛び降りようとする」「突然、外に走り出す」「突然笑いだし、階段を駆け上がろうとする」「泣きながら部屋の中を動き回る」などがあります。ベランダに面していない部屋で寝かせるなどの対策が必要です
8.ワクチンの予防効果はどの程度ですか?
インフルエンザワクチンには、インフルエンザの発症を予防する効果があります。具体的には乳幼児で50~60%程度の発病阻止効果があったとされ、70~80%の重症化予防効果も報告され、入院率を減らすことが示されています。更に多くの人がワクチンを接種することで集団全体を守る効果も知られています。かつて学校単位で集団接種が行われワクチンの接種率が78%の時には、各学校の学級閉鎖の平均日数は7日でした。ところが集団接種が中止されると、学級閉鎖の平均日数が20日まで増えてしまいました。すなわち接種率が高ければ1/3程度にまで学級閉鎖を回避できることを意味します。
9.ワクチンの効果はどれぐらい続きますか?毎年接種したほうがよいのでしょうか?
ワクチン接種後2週間程度で抗体が作られ、その抗体が一般的には1シーズンは持続します。ワクチンはその年に流行すると予測されるインフルエンザ株を狙って作られているので、毎年接種する必要があります。
例年小児の接種率は50~60%、高齢者で40~70%となっています。低年齢児ではインフルエンザの自然感染歴は少なく1回では効果が低いため、6カ月~3歳未満では0.25mLを2回接種することが勧められています。日本では3歳~13歳未満の子供には0.5mLを2回接種し、それ以降は1回の接種が勧められていますが、回数についてはいろいろと議論があるところで、かかりつけ医の先生と相談してください。
10.ワクチンの副反応は?
副反応としては10~20%に局所の腫脹、発赤がみられます。発熱、頭痛、悪寒などの全身性の反応が5-10%にみられますが通常2~3日で消失します。これらはワクチンが体の免疫反応を誘導する薬である性質を考えると避けられないものですが、インフルエンザにかかるリスクを重くみて接種が勧められています。
11.鼻に投与するワクチンが開発されたと聞きました。どのようなものですか?
弱毒生経鼻インフルエンザワクチンが承認され、2024年のシーズンから使用されるようになります。これはインフルエンザウイルスの病原性を弱め、体温より低い温度になっている鼻で増えやすく、かつ体温に近い温度では増えないように改変し安全性を高めたウイルスを使用したワクチンです。海外では、20年近く使用されており、子どもへの有効性は従来のワクチンと同等以上とされます。従来のワクチンと異なる点は、投与方法が鼻からの投与で注射の必要がない点です。粘膜の免疫も誘導することで、感染予防効果が上がるだけでなく、効果の持続時間が長いという報告もあります。副反応としてこれまで大きな問題は起こっていませんが、鼻汁など軽い風邪の症状が出ることがあります。免疫不全症や免疫抑制薬を使用中の方は投与できず、喘息がある人では注意が必要です。
12.感染対策として有効な手段について教えてください。
手洗いとマスクの適切な着用が重要です。マスクと手洗いをすると、マスク単独やマスク・手洗いなしの人よりも35~51%インフルエンザの発症を予防したという研究があり、手洗いとマスクを併用することが大切であることが分かります。アルコールによる手の消毒も有効です。
13.出席停止期間と学級閉鎖の効果について教えてください。
インフルエンザウイルスに感染した場合には、発症後5日、解熱後2日(乳幼児の場合には3日)の出席停止が学校保健法に定められています。この期間はインフルエンザウイルスの排泄期間と関係しており、発症6日目にはウイルスの検出率は数%以下になるためです。学級の20%前後がインフルエンザで欠席する場合に、学級閉鎖が検討されます。学級閉鎖を実施することで、閉鎖前と比較し、感染者を半分程度まで抑え込むとされており、6日程度の期間で再閉鎖することなく感染を抑えることができます
おわりに
今年もインフルエンザウイルスに対する予防接種が始まります。インフルエンザの症状の重症化やインフルエンザウイルスの大流行を防ぐため、適切な感染対策とインフルエンザワクチン接種を行って対策していきましょう
参考文献
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https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20231122_influenza.pdf (参照2024-5-13) - 日本小児科学会.新型インフルエンザ小児死亡例の実態調査結果. 2011年2月2日. https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/influenza_6.pdf (参照2024-5-13)
静岡済生会病院 小児科 水嶋啓人
浜松医科大学 小児科 宮入 烈
出典:浜松成育医療学講座通信 第10号(2024.6)