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通常級に在籍する神経発達症が疑われるお子様への対応

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1.神経発達症とは

いわゆる発達障害は医学的には神経発達症と呼ばれています。
神経発達症は「器質的異常は明確ではないが、脳機能障害が推定される社会的行動や学習に困難を生じる状態(アメリカ精神医学会 精神障害の診断と統計マニュアル第5版:DSM-5)」と定義されています。ここで定義されているように神経発達症は“脳機能障害”によって引き起こされる状態であって、育て方、育ちによって生じる状態ではないということが重要な点となります。

神経発達症には

  • 自閉スペクトラム症(ASD)
  • 注意欠如多動症(AD/HD)
  • 知的発達症(知的障害)
  • 限局性学習症(学習障害)
  • コミュニケーション症(吃音、構音障害など)
  • 運動症(発達性協調運動症、チックなど)

などが含まれています。

ただ、神経発達症の特徴を持っているからすぐに診断ということではなく、発達障害者支援法にも「発達障害者とは、発達障害(=発達特性)があり、発達障害および社会的障壁により日常生活・社会生活に制限を受ける者である」と記載がある通り、神経発達症の特徴(=発達特性)による社会生活障害が生じたときにはじめて神経発達症(発達障害)と診断されます。

神経発達症

2.神経発達症と学校生活

自閉スペクトラム症は約 20~50 人に 1人、注意欠如多動症は約 20~30人に1人の割合で存在すると言われています。単純計算で 30~40人学級の中で、1~2人が自閉スペクトラム症、1~3人が注意欠如多動症の可能性があるということになります。そして、その全てのお子様が特別支援学級や特別支援学校に在籍しているわけではなく、多くのお子様が通常学級にも在籍しています。

特に浜松市は 1歳半健診から子ども達の発達を見守り、育てていく体制が比較的整っており、早ければ 1歳代からの早期から療育を受けているお子様が多くいます。なので、就学前の段階では見てすぐわかるような特徴的な行動が減っていたり、ある程度整備された環境の中では集団に問題なく参加できるまでに社会性が向上してきているお子様が増えてきています。ただ、年齢が上がったからこそ表面化してくる対人面の課題や、集団活動において幼児教育の時よりも求められるスキルが上がったことによる社会性の課題、授業が始まって初めて表面化する学習面での課題など、就学してはじめて表面化する課題も多くあります。幼稚園や保育園の時と比べると就学後は学校での子どもの様子が把握しにくくなったと感じる保護者も多く、お子様の学校での困り感が親御さんに伝わりにくいことが多いので注意が必要です。

3.実際の対応とその注意点

1 合理的配慮

通常級に在籍する神経発達症あるいはその疑いのお子様の配慮について話をする際に、挙がる話題に「合理的配慮」があります。文部科学省は教育の分野においての合理的配慮を「障害のある子どもが、他の子どもと平等に教育を受ける権利を享受・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適切な変更・調整を行うことであり、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」で「学校の設置者及び学校に対して、体制面、財政面において均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義しています。

特別支援学級や特別支援学校に所属することは合理的配慮から外れることだと認識されている方もいらっしゃいますが、特別支援学級や特別支援学校は合理的配慮のための基礎的環境整備に相当し、こうした基礎的環境整備は合理的配慮の充実を図る上では重要なものと位置づけられています。

2 公平と平等

公平と平等は似たような意味があり混同しやすいのですが、平等は個人の能力や状況を考慮せず皆を等しく扱うことで、公平は個人の能力や状況を考慮して偏りをなくし皆を同じ条件にすることとされていて大きな違いがあります。

公平と平等
教育においては、教育の機会は子ども達に平等に与える必要がありますが、個々の能力や状況によって教育の内容や配慮・支援は公平であるべきだと私は考えています 。

3 対応のポイント

1)子ども達に伝わる伝え方を

子ども達に指示を出したとしてもその内容が正確に伝わっていなければ子ども達は行動することができません。伝わっていなければ指示を出していないと同じになってしまいます。伝え方のポイントとして、

  • 何を使うか:音声、視覚、視覚聴覚以外の感覚など
  • どのように伝えるのか:声のトーンや速度、絵なのか写真なのか文字なのか
  • いつ伝えるのか:事前に、直後になど
  • だれが伝えるのか:だれが一番効果的なのか

を考慮して、伝え方を工夫できるとよいと思います。

2)ごほうび制度(トークン)の積極的な活用を

私たち人間の行動は、行動をすることで何かしらの得をすることが多くあります。大人も仕事に見合うそれなりのお給料や、周囲からの評価、やりがい、達平等 公平成感などメリットがあったり、得をするからという理由で仕事を続けられるのだと思います。

神経発達症やその疑いあるのお子様は先を見通すことや推測すること、目に見えないものを想像すること・記憶しておくことを苦手としていることが多いです。他の子ども達は「これをしたらお母さんから褒められるだろうから」とか「みんなからかっこよく思われるだろうから」とか、逆に「こんなことをしたら大人から怒られるから」とか「みんなからみっともないと思われるだろうから」といった現実には起こっていない目で見えることのない推論で、自分がどんな行動をしたほうがよいのか決めることができるのですが、神経発達症やその疑いのあるのお子様はそれが苦手なため、行動の動機が持ちにくい状況になります。そこで登場するのがごほうび制度です。学校の中で使用できるごほうびは限りがあると思うので、「できたら花丸」とか「できたらシール」などが現実的でしょうか。のめりこみやすいタブレットなどの使用をご褒美することは避けた方がよいでしょう。そして、ポイントとして必ず1日1つはゲットできる目標設定にする、目で見える形で残るものにしていただけるとよいかと思います。

3)子ども達の困った行動にどう対応するか

子ども達の困った行動を減らしていく際には応用行動分析の手法を利用することが有効な場合があり、困った行動の分析、特に行動の前後の状況の分析が重要となります。

  • 困った行動が起こる前の状況:どのような場面でどんな流れでそうなったのか
  • 困った行動が起こった後の状況:本人がその行動で得をしているのか、立ち直るのにどのぐらい時間がかかったのか、立ち直るきっかけがあったのか など

困った行動が起こった状況を丁寧に確認していくと、起こした行動は許されないことでも、その行動を起こすに至った気持ちの動きには共感ができることが多くあります。また、丁寧に確認してお子様も含めて振り返りをすることで、その子の状況判断や相手の感情のとらえ方などの認知のミスに気づき、修正をしていくことができます。

4 クラスメイトとの関係性

神経発達症やその疑いのあるお子様はクラスメイトから見ると「できないことが多い子」「困ったことをする子」という位置付けになりやすいことに注意が必要です。周囲から評価をされないと本人の評価も低くなってしまいます。お互いがお互いの良いところを認め合えるようなクラス全体の雰囲気を作っていけるとよいかと思います。

昨今、親御さんやごきょうだいのケアをしている子ども達であるヤングケアラーが注目されています。この定義に正確に当てはまるわけではないのですが、学校でもヤングケアラー的な子ども達を生み出してしまう危険性があることを留意しないといけないと思っています。いわゆる「〇〇さんのお世話係」と呼ばれるお子さんです。お世話係を頼まれるお子様は、まじめで優しいお子様が多いかと思います。最初は負担なくお手伝いしてくれていても、それが重なればその子自身の時間を奪ってしまったり、余計な気を使わせてしまったり、まじめな性格がゆえに嫌でも断れないためつらい気持ちがたまってしまう懸念があります。
誰しもがお互いに助け合わないと生活できていけないので支援や助けを周囲に求めるのは大切なことですが、一人のクラスメイトに集中することがないように大人が配慮していくことが大切です。

5 支援・配慮の引き際

支援や配慮を入れることよりも支援をいつのタイミングでどのようにやめていくかの方がとても難しいと思っています。支援をやめていく際もスモールステップが基本となります。「〇〇しますよ」から「次は何する時間ですか」と声をかけることは変えず、声掛けの内容を変えていくことも一例です。支援・配慮には人が関わる支援と物や道具を使った支援の大きく分けると2つがあります。基本的には声掛けなど人が関わる支援から減らしていけることが理想です。物や道具を使った支援はその物をお子様自身が使いこなすことができれば無理にやめる必要はないと思いますし、物や道具を自分で使いこなせるように支援していくことが必要だと思います。

4.終わりに

対応のポイントをお伝えしてきましたが、全てのお子様に有効な万能な方法はありません。それぞれのお子様に合わせて試行錯誤しながらアレンジをしていけるとよいかと思います。校内や学外の関係者、保護者の方と連携を取りながら子ども達の健やかな成長を見守っていけるとよいでしょう。

浜松市発達医療総合福祉センター 友愛のさと診療所 朝比奈美輝

出典:浜松成育医療学講座通信 第4号(2022.10)

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