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絵本笑介「ももたろう」その2
「ももたろう」
ぶん/松居 直
え/赤羽 末吉
福音館
さあ、ももたろうから鬼退治に出かけたいと言われたおじいさん・おばあさん、はいそうですか、いってらっしゃい!なんて簡単にストーリーを進めさせません。からすの登場もそうですし、ももたろうの頼みに心揺れるおじいさんおばあさんの会話も、この「ももたろう」では出発までの心理描写が丁寧です。だから“いざ出陣!”のももたろうの気持ちにストンと同化できます。
いぬとさるときじをお供にいよいよ鬼が島へ向かいます。
「うみをこえ、ゆくがゆくが ゆくと・・・」のページは大迫力です。荒々しい波に打ち勝つように前へ進む船、ももたろうの目はしっかり行く手の鬼が島を見ています。ページ全体からくるこの迫力がストーリーを盛り上げます。ある「ももたろう」では青い凪のようなきれいな海に浮かぶももたろう船。絵の力の差とはこういうことです。
このページシーンの雲の色にも注目してください。どんよりとした雲がさらにももたろうの行く手を阻もうとする空気を感じさせます。しかし、戦い終わって帰るときの海と空を比べてみてください。
もうひとつ、「うみをこえ、ゆくがゆくが ゆくと・・」の言葉にも注目。こんな古典的な言葉、わかるかしら?って思うでしょう。絵本の読み聞かせをしているとたびたび“難しい言葉や表現”に出くわして、子どもに質問されたらどうしよう?なんてハラハラしたことありませんか?読み聞かせはわからせようと読んでいるわけではありませんね。一冊の絵本のエンターテイメントを楽しむわけですから、言葉の説明はケースバイケースです。ほとんどさらっとリズムのように流していいと思います。
余談ですが、日本語の良さは「あらマツムシが鳴いている・チンチロチンチロチンチロリン・ああおもしろい虫の声」と表現するように、“音”でなく“声”にして楽しんでしまうところにあると思います。これは擬人化しているというより、日本人の感性を絵本を通じて育てているのだと思います。エリック・カールの「はらぺこあおむし」の日本語翻訳と英語の原本を比べると、“But”にあたる日本語は“まだ”“やっぱり”“それでも”“まだまだ”とあります、日本語は表現がゆたかです。だから絵本の中の言葉はひとつの単語であっても全体の響きをともなう役割を担っていることがあるので「流れで読める」ようになるんですね。
さあ、「ももたろう」のエンディングです。
そこは説明を省きます。どうぞ絵本でお楽しみください。
以上、この「ももたろう」をお勧めしたい良書と言える特徴をあげてみます。
1. 見ているだけで頭の中に物語の展開をイメージさせてくれる絵
2. 子どもたちの想像力をかきたててくれる絵と言葉
3. 子どもたちが素直に感情移入できる絵と文章
4. やさしくリズミカルな表現
5. お母さんと対話を可能にするような要素があること
ところで、なまけものでケチンボのももたろうや21世紀タイプのももたろうが登場する「ももたろう」もあります。いろんな「ももたろう」に出会ってみましょう。
「ももたろう」
代田昇 文
箕田 源二郎 画
講談社
ずうたいはでかいばかりでなまけもの。「たきぎとりにいこう」と誘われても「ぞうりがねえからいかねえ」とごろごろ。いぬとさるときじには、きび団子をひとつあげないで半分っこするももたろう。どんなストーリーで「ももたろう」伝説を展開するでしょうか。創作民話として楽しめる一冊です。
「ももたろう」
五味太郎 作
絵本館
2007年4月初刷りの“五味太郎初の古典書き下ろし!”と帯が謳う五味太郎の最新「ももたろう」です。なんとなく鬼を見たくなって鬼が島へ出かけていくももたろう。サッカーやったりして仲良くなって、“別の”鬼が島へ行ってみんな仲良くなって帰ってくるお話。
さすが五つの味の太郎さんが書く「ももたろう」の今風テイストです。
「ももたろう」<1><2>