クローズアップ「ひと」

塚本こなみさん 樹木医【前編】

2012年4月9日

自分で根を張り、生きる力をつける… 子育てと木を育てるのとは、一緒なんです

塚本こなみさん

日本女性第一号の樹木医として、また「あしかがフラワーパーク」大藤の移植を成功させた園長として、全国的に有名な塚本こなみさん。

現在は「はままつフラワーパーク」理事長として、植物や自然の魅力を新たに発信しています。これまで、テレビ番組「プロフェッショナル仕事の流儀」など、多数のメディアにも登場しました。

日本全国を忙しく飛び回る日々ですが、お住まいはここ浜松市です。すぐそばに湖面きらめく佐鳴湖を臨む、ご自宅を訪ねました。浜松のこと、木のお仕事のこと、子育てのこと…ざっくばらんにお話ししてくださいました。


“あわくらい”な浜松人気質

「浜松に嫁いでしばらくは子育てに必死だったので、仕事で全国さまざまな場所に行くようになって、初 めて浜松の良さに気づきました。最初に思ったのは、私たちが日常的に飲んでいるお茶のおいしさですね。他の土地に行くと、おもてなしの場所でこんなお茶を 出すの?って感じてしまうほど。気質の面では、浜松人は明るくて“あわくらい”(“おっちょこちょい”という意味)なんです。そして、人が良くて、とにか くやってみようっていう“やらまいか精神”がある。きっと、気候風土に恵まれているからでしょうね」
もちろん塚本さんも、しっかり浜松人気質を持っています。
「基本的には、お仕事を頼まれたら断れないんです。いちど関わったら、結果がでるまでとことんつきあってしまう。最後には周りの人に『そこまでやらなくてもいい、いいかげんにしろ』って怒られてしまうんですよ(笑)」
ほとんど休みもとらず全国を飛び回って仕事を続けるパワーの源を尋ねてみると、 「貧乏性なので。回遊魚みたいに泳ぎ続けないと、止まったら死んじゃいますから」と笑います。

助からない命だった“奇跡の一本松”

奇跡の一本松

仕事で山形や福島に行くことも多いという塚本さんに、「奇跡の一本松」(東日本大震災の津波にあいながら、ただ一本倒れず残った陸前高田の防風林)のことについて尋ねてみました。
一本松は保護のためのさまざまな処置がされましたが、再生不可能として2011年10月には保護作業が打ち切られました。現在では保存処理が施され、モニュメントとして整備されています。
「あの木はすでに、枯れていました。根が塩水に浸かってしまっては、もう助からないのです。塩素が残って葉の気孔をふさぎ、窒息死します。樹木医たちの間では、『あの木は枯れるね』と言っていました。でも、一本だけ立っている姿がそのまま残ったということで、一縷の望みというのか…、普段は物として見ていた木に対して『そこにいのちがある』という気づきをもたらしてくれました。ひとが生きていくうえで、心のよりどころはやはり必要なものです。家族を失うなど大変な悲しみを経験された方たちにとって、あの松がよりどころになりえたのかもしれません」

従前からインタビューなどで『木に対して人間ができることは、実は何も無いのです』と、仏教における無常観にも通じる発言をされている塚本さん。「基本的に、生あるものは死す。形あるものは滅する、という大前提の中で私たちは暮らしているのです。樹木医の仕事をしていて、樹齢100年や200年の木を診てください、っていうお話もありますが、たかだか60年を生きた私が、数百年を生きた木に対して何がしてあげられるだろう?って思います。何もしてあげられないのです。人間って、すべてを受け容れることはできないですよね。じたばたしてしまう。だけど木は、雷がおちて枝がおれようが、人がチェーンソー持ってきて今から倒しますよ、と言おうが、『いいよ』って、全てを受け容れて、そこにあるんです。大いなる愛がそこにある…そう思います」

そんな塚本さんが、折にふれ『会いに行く』という大木があります。浜松市天竜区春埜山にある、大光寺の“春埜杉”です。

春埜杉に「ほわほわした」子どもたち

春埜杉

樹齢約1300年と推定されている春埜杉は、高さ48m、幹回り14mの神木。静岡県天然記念物に指定されています。
塚本さんは、ここに一人で来るだけでなく、これまで多くの友人を案内したそうです。「皆、木を前にして全身がゆれたり、涙を流したり、すごい!と叫んだ り…、いろいろな反応をしますよ。何かエネルギーを感じるのでしょうね」

NHKのテレビ番組「ようこそ先輩」で、福田小学校の子どもたちへの課外授業をした際も、番組はこの木の前で子どもたちと出会うところから始めました。 「そのとき、子どもたちの第一声は何だったと思います?…『心がほわっと、あったかくなった』とか『ほわほわする』って言ったんです。テレビカメラが向く と、言葉を選んで『すごいと思います!』って言ってたけれど(笑)、実際には『ほわほわ』っていう感覚が、素直な感想だったんでしょうね。子どもたちの感 受性はすごいです」

番組では子どもたちに「木と話をする」という課題を出し、1か月観察日記を書いてもらいました。
「最初は『木に話しかけても返事がない』と書いていたこどもたちも、1週間、2週間とたち、3週間目になると『運動会で2位になった。ぼくの木が応援して くれた』『木が、ぼくの悩みを聞いてくれた』などと書くようになる…そういう子が何人もいたんですよ。『今度彼女ができたら連れてくるから』とか(笑)。 子どもたちはおせじで書きませんからね。1か月間木を見て、木と触れ合って、考え、感じたんですね」

後日、担任の先生からお礼の手紙が届きました。「子どもたちのようすが様変わりしました。教育現場でどんなに努力してもできなかった子どもたちの姿がここ にあります」と…。
「大切なのは、心の学びです。自然への畏敬の念を感じるということです」
ご自身も3人のお子さんの母親である塚本さん。その子育ては、どのような日々だったのでしょうか…?

<こなみさん流の子育てとは? 後編はこちら!>

「奇跡の一本松」の写真提供:河北新報社 寺島英弥さん
「春埜杉」の写真提供:浜松情報BOOK
http://www.hamamatsu-books.jp/