クローズアップ「ひと」

大村由実さん えほん文庫代表

2015年5月5日

目指すのは、絵本を中心にした地域交流。歩み続ける現役ママ

大村由実さん

童話の世界そのままのような、洋風建築のお宅。自宅の一部を「えほん文庫」として開放し、絵本の貸し出しやさまざまな講座を開催している大村由実さんは、 穏やかな語り声が魅力的な、会う人をほっとさせる温かい雰囲気の女性です。そんな彼女が情熱を傾けて企画、運営するさまざまな活動の場には、常に大勢の子 育てママが集います。そんな大村さんのパワーの源は何なのでしょうか。

子育てを孤独なものにしたくない。親同士をつなごう

えほん文庫

「わたし自身も、ここで子育ての悩みを相談しているんですよ」と大村さん。自身は高校生、中学生、小学生の3人の子どもを持つ母。まだまだ子育ての悩みは尽きず、現役ママならではの同じ目線で話せる仲間づくりを大切にしています。

文庫のオープン日は主に平日昼間、月に半分程度。毎週金曜の絵本無料貸し出しのほか、講座が開かれる場となっています。

アットフォームで和やかな時間

内容は、手遊び講習会、交流会や、自然素材の料理教室、子連れで参加できるバレエやヨガ、音楽療法講座などさまざま。「子育て中のママたちが、1人ではできないけどやってみたい!と思ったことを実現する場になっています」と、大村さんはほほ笑みます。講師は、絵本を借りるために通っていた母親たちや知人・友人など、プロやセミプロの皆さん。 アットホームで和やかな時間が流れています。

新しい形の家庭文庫を!その誕生前夜、思いがけないことが

「えほん文庫」の産声が上がったのは2007年11月。自宅新築の際、音楽や文学好きな大村さん夫婦のかねてからの夢を実現すべく、絵本の貸し出しやお話会、演奏会ができるミニホール付きスペースを設けることに。

新しい形の家庭文庫を!

そもそものきっかけは、かつて見た、千葉に住む伯母の家での光景でした。英語教室だったそのお宅には、図書館からの本が多数置かれ、そこに出入りする子どもたちが自由に借りたり読んだりしていたそうです。
それが家庭文庫の1つだったことを知ったのは、自身が子育てをするようになってから。伯母の影響もあり、絵本好きになっていた大村さんは、子育て中にコツコツ集めてきた絵本250冊を手に、情報集めのため各所を飛び回りました。当時浜松市内に7カ所程あった家庭文庫のいくつかを実際に訪ね歩くかたわら、図書館員や、絵本に詳しい知人らに教えを仰ぎました。名前は家族会議の結果「えほん文庫」に決まりました。
こうして着々とオープンを進める中、思いがけないことが起こりました。生まれて間もない第3子のごうちゃんに、ダウン症との診断がされたのです。青天の霹靂でした。大村さんは何も手につかなくなり、えほん文庫の準備は中断。毎日ただ涙が流れ、1か月が過ぎていきました。

キーワードは「障がいの有無にかかわらず集える場所」

えほん文庫

そんな中、以前から文庫設立の助言をくれていた友人から「そろそろ絵本の注文リストを作る頃よ」と言われ、はっと我に返りました。「泣いてばかりいてはいけない」と、オープンへの準備に目を向けるようになりました。
思い起こせば、中学校時代には点字クラブ、成人してからは視覚障害者用の朗読を吹き込むボランティアをめざし、10年間情熱を傾けた朗演の世界…。常に「ハンディキャップのある人たちのために、何かできることはないか」との思いがあった大村さん。「障がいのあるなしにかかわらずみんなが憩える場所をつくりたい」との思いが、第3子のダウン症告知を機に、明確な目標となりました。

リーフレット「天使からの贈り物」

やがて、自身が子育てしていく中で「障がいを持って生まれた子どもを育てる親のサポートが大事」と気づいた大村さんは、自らの経験をもとに、ごうちゃんがダウン症と告知されてからそのことを前向きに受け入れるまでの想いを綴り、「天使からの贈り物」と題したリーフレットを自主制作。市内の助産院や産婦人科、子育て支援ひろばなどに設置して貰いました。こうして、ダウン症の子どもを育てている親が1人で悩むことのないよう、熱心に呼びかけ始めました。また、えほん文庫で「ダウン症のある赤ちゃん会」を定期的に催し、親子の仲間づくりの場を築いていきました。

障がいのない親子も多数訪れる、その理由とは

大村由実さん

こうして、えほん文庫には、ダウン症などの障がいや、発達に心配のあるお子さんの母親が、大村さんや仲間を頼って次々と訪れるようになりました。
一方、来場者には障がいのない子どもとその母親も少なくありません。そのことを意外に思っていた大村さんは、あるときその理由を母親たちにたずねました。すると、「小さいころから障がいのある友達とふれあうことで、将来自分と違う特性を持つ人たちと垣根のない社会をつくっていってほしい」という答えが返ってきたのです。
障がいのある仲間とのふれあいは、そうでない人にとって、自分が生きる(生かされている)意味を知る大切な機会になる――そう思っている親たちがたくさんいる。「いろいろな仲間が共生できる未来を夢見ているのは、自分1人じゃない」大村さんが、そう気づいた出来事でした。

「多くの悩めるママたちの居場所でありたい。1人でも多くのママに、心安らぐ場所として利用していだだけたら嬉しいです」と話す大村さんは、今日ももうすぐスタートする講座に向け、準備に余念がありません。

親子の仲間づくりの場

取材の最後に、こう教えてくれました。
「ダウン症の第3子ごうちゃんは、現在7歳でわんぱくに成長中。家族みんなが愛してやまない、中心的な存在です。今では、子どもがダウン症だったおかげでより多くのママたちと出会えて仲間になれたことに、深く感謝しています。私自身、まだまだ子育ても自分育ても真っ最中ですが、これからも多くのママたちの心安らぐ居場所であり続けるために、精進したいと思っています」
母になってもうすぐ16年。この年月の間に、絵本を通じた交流の場を自ら生み出し、運営してきた大村さん。浜松市内外の子育て世代みんなにとって、優しくも頼もしい母のような存在であることは間違いありません。

◆大村由実(おおむら ゆみ)さん 略歴◆

浜松市中区に生まれ育つ。7年の銀行勤務後、朗読の勉強のため東京で1年間演劇を学ぶ。その後、静岡市の朗演エトピリカ(一人芝居・朗読グループ)に10年間在籍。自身の子育て中、浜松市北区三方原町に「えほん文庫」をオープン。絵本の無料貸出やお話会、ピアノコンサートなどの音楽会・イベントを企画、開催。図書館・小中学校などでの読み聞かせ等実績多数。

  • えほん文庫 代表
    http://ehonbunko.hamazo.tv/
  • 静岡ダウン症児の将来を考える会 浜松グループ 会員
  • 東日本大震災支援チャリティーイベント「やらまいか!あしながママ(4回開催)」実行委員長
  • ディック・ブルーナ(オランダの絵本作家)が描く車椅子の女の子をモチーフにしたバリアフリーグッズ(販売元:ブーフーウー)の販売を行う

(2015年4月15日にインタビュー 談:大村由実さん 取材・文:ぴっぴ 島和柄)