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被災地のママたちを支え、防災の大切さを伝えたい

東日本大震災から5年 今伝えたいこと<4> 

佐藤美代子さん
(まんまるママいわて 代表)

ぴっぴ:現在は、どのような支援をされていますか?

佐藤さん:「まんまるママいわて」は、2011年、東日本大震災をきっかけに立ちあがった、助産師とママをつなげる子育て支援事業をメインに活動する任意団体です。現在は、子育てサロン「まんまるサロン」を岩手県の沿岸被災地を中心に各地(宮古、大槌、釜石、遠野、陸前高田、花巻、北上)で実施しています。スタッフに助産師がおり、子育てや母乳に関することなど、サロンの場で相談も受けています。

佐藤さんの活動のようす

私たちのサロンには被災した親もそうでない親も来ますが、対応を分けることはしません。サロンに来る母親たちの子育ての悩みは同じであり、「被災した親だから、ここがこう困っている」などと、人によって切り分けられるものではないのです。また、被災した親も、最初から自身の被災経験を語る人はいません。何回もサロンに通ううちに支援者との関係性が築かれ、少しずつ語れる時期がきて、語ってくれ、そのつらい思いを吐露してくれます。

ぴっぴ:2011年当時、被災した子育て世代にまず必要だったものは、何だったのでしょうか?

佐藤さん:何もかも足りない状況でしたが、物資として長期にわたり必要とされたのは「おむつ」と「ミルク」でした。しかし、母乳育児をしていた人にもミルクが配られ、母乳を与える場所が無い環境のせいもあって必要以上にミルクを飲ませ、母乳が止まってしまうなどのケースもありました。また、物資として送られてきた「衣類」は古着が多く、中にはひどいシミや汚れがついたものもあり選別が大変でした。

(世間に)災害時の子育てへの理解がありませんでした。子どもが泣いたり騒いだりするとうるさがられ、避難所にいられないケースは多かったです。岩手は家長制度が強い土地柄であり、祖父世代から「周りの人も大変なんだから我慢しろ」と言われると、母親たちは自分が困っていても言い出せませんでした。

全体としては「防災意識」が必要だったと思います。私自身も震災当時5か月の子どもを育てていましたが、いくら「母乳を飲ませていれば大丈夫」と知っていても、1日に何度も鳴る地震を知らせる携帯アラームに落ち着かず、不安な気持ちで母乳をあげ、おむつを替えるのはなるべく早く、大きな余震が来たらすぐに避難できるようにしていました。携帯電話が使えない、テレビがつかない、それだけで情報が途切れてしまう現代のネット社会に、防災意識が足りなかったと言わざるを得ません。

ぴっぴ:現在、被災地の子どものいる家庭で問題・課題だと思うところがあれば教えてください。

佐藤さん:震災から5年、津波被害が大きかった沿岸部では、未だに街ができていません。整備が完了した土地が少ないため土地価格が高騰し、戻るに戻れません。子どもを遊ばせようにも公園が無い、預けたくても保育園に入れない、という状況です。震災当時幼児だった子どもも小学生になり、公園を知らずに育った子どももいます。また、岩手はもともと三世代同居も多く、地域で子育てしていたのですが、震災を機に地域のコミュニケーションが分断されてしまい、都会の孤立した子育て環境のような状況があります。被災地の子育て状況は厳しいといえます。

ぴっぴ:東日本大震災以降の5年間をふり返り、子育て家庭への支援制度や意識等、変わったことはありますか。

佐藤さん:津波から逃げて助かった人の防災意識は高いのですが、後から来た人、内陸にいた人は、何も変わっていないように思います。震災後、岩手県助産師会が日頃持ち歩くべき防災グッズ等の情報をまとめ、母子手帳に入るサイズの冊子を作り大変評判が良いものでしたが、県全域で一斉配布などには至りませんでした。

2011年当時、高校生がボランティアとしてとても良く働いてくれました。彼らが今、子どもを持つ世代になりつつありますが、子育て世代はどんどん人が入れ替わっていくので、防災意識を次の世代に受け継いで行くことがこれから重要だと思います。

佐藤美代子さん(まんまるママいわて 代表)

佐藤美代子

2011年2007年岩手県花巻市でいずみ助産院開業。2011年東日本大震災をきっかけに、まんまるママいわてを立ち上げ。

沿岸被災地を中心にのべ200回、1500組以上の母子支援活動をしている。

ぴっぴから

震災から5年が経過し、世間の防災への関心が薄くなっていることを、ぴっぴも実感しています。子育て中の家庭を対象に、ぴっぴが防災啓発ワークショップ「ぼうさいぴっぴ」を始めた2006年当時、このような取り組みはまだ珍しいものでした。その後、2011年の東日本大震災の発生を機に、防災への関心が全国的に大きく高まりました。2012~2013年は、ぴっぴの取り組みについてもお問い合わせが非常に多かった年です。しかし、2014年以降は急激に問い合わせが少なくなりました。「喉元過ぎれば…」という言葉そのままの状況です。

子育て世代は子どもの成長につれ、関心ごとがどんどん移り変わっていきます。「ミルクやおむつが手に入るかどうか」「抱っこして避難できるかどうか」を心配する時代が終われば、心配していたことも忘れてしまうのかもしれません。しかし、「災害が起きたら、こんなことに困るから、こうして備えておこうね」と情報を次の世代に手渡していかなければ、新しい子育て世代は無防備なまま、また同じ辛さを味わってしまうのではないでしょうか。

「子育て世代はどんどん人が入れ替わっていくので、防災意識を次の世代に受け継いで行くことが重要」という佐藤さんの言葉には、災害時の厳しい子育て状況をよく知る方ならではの重みがあります。被害に遭いながらも助かった方々は、さまざまな想いや配慮から、災害時について語ることに躊躇があるでしょう。しかし、それでも「次の世代のために」と語ってくださる方々のことばを、私たちは大切に受け止めたいと思います。

<midori>

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