クローズアップ「ひと」

和久田麻衣さん、影山恵さん ことゆく社

2019年4月15日

母親視点の気づきから新しいランドセルを生み出したママたち

ことゆく社1

入学式を迎え、新しいランドセルを背負い小学校に向かう子どもたち。「大きくなったな」と頼もしく感じる反面、「随分重たそうだけど、学校までしっかり歩けるかな」という心配もついてまわります。そんな子どもたちの登下校の姿に疑問を感じ、数年前に動き出した2人のママがいます。小学生の親ならではの視点から生まれたナイロン製のランドセル「ことゆくラック」を企画・販売している和久田麻衣さんと影山恵さんです。

近頃の小学生は、授業数の増加から教科書の種類やページ数が増え続け、平均7キロと言われる重いランドセルを背負って登校している現状があります。昨年秋、文部科学省が全国の教育委員会などに配慮を促す通達を出したことで「置き勉」(荷物を軽くするため、教科書類を学校に置いて帰る対策)も話題となりました。そんな世間の動きに先駆けてふたりがこの事業に取り組んだ理由や、これから目指すものについて取材しました。

小学生の親になり感じた 「重たいランドセルへの疑問」

現在、和久田さんは4年生・1年生・年少の3人、影山さんは6年生・3年生の2人の子育て中です。ふたりが知り合ったのは、独身時代の勤務先でした。ものづくりや雑貨が好きだったことで就職した浜松市内の雑貨メーカーで、和久田さんは仕入れや販売を担当、影山さんはデザインを担当していました。結婚や出産を経て、和久田さんは別の会社で働き始めていましたが、子どもが小学生にあがる頃、偶然再会しSNSなどを通じ再び交流が始まりました。

ランドセルについて考えはじめたのは2年ほど前です。影山さんが子どものランドセルに関する違和感をSNSで投稿。それを見た和久田さんは、当時1年生だったわが子の「肩が痛い」と辛そうにしている姿と重なりました。子どもを見送りながら改めて周りを見渡すと、どの子も重そうなランドセルを背負い大変そうに登校していることに気づきます。「なんとかしてあげたい!」という気持ちが日に日に高まり、「子どもたちが快適に使えるランドセルがあったら……」という思いへと発展します。長年、同じくものづくりに関わってきた影山さんへその思いを伝え、ふたりで理想のランドセル製作に挑戦することになったのです。

「ことゆくラック」に込めた思いと新たなつながり

影山さん

社会人時代に経験した商品企画のノウハウがあるものの、ランドセルの企画についてはすべて一から。素材を調べて取り寄せては試作品を作り、またやり直しの日々が始まりました。不安がなかったのか聞いてみると、「受け入れられるかどうかの不安はありました。でも、まずは自分が欲しいと思ったもの作ってみたくて。それを形にしてみると『こんなものが欲しかった!』という声が聞けることが多いんです」と影山さん。今までもマザーズバッグの企画などで「自分自身が欲しい」と感じたものを形にし、反応を見てきた経験があったからでしょう。ただ、「ランドセル自体が縫製など特殊な商品なので今までのものとは別物。ものづくりとしても、難しい部分が多かったです」というように、小学生が毎日使用するものを作る難しさを痛感したそうです。和久田さんと相談しながら、それぞれの得意な部分を活かしつつランドセルの試作を進めていきました。そんな中、通常のランドセルが合わずリュックサックで登校している子の話を知り、同じように子どもの登校を心配する親の声を聞くことで、なんとしても使いやすいランドセルを作りたいという思いが強まっていきました。

和久田さんと影山さん

徐々に形が見えてきた頃、「新聞やネットで取り上げられることで、より多くの子育て世代に知ってもらう機会を作りたい」と考え目指したのは、市内で開催されるビジネスコンテストへの出場です。会社を立ち上げる前だったこともあり、最初は個人名での応募でした。「他の応募メンバーを見て、みんな会社名だね!とびっくりしました。そこまで考えていなくて。逆にそれがインパクトを与えたのかもしれませんが」と、自分たちの思いを形にすることに必死だったことがうかがえます。

その後、選ぶ側も安心感があるだろうと「ことゆく社」を立ち上げ、ランドセルは「ことゆくラック」と名付けられました。『ことゆく』は「子と行く」という言葉にかけ、「子どもたちに寄りそう、一緒に歩む」という素直な気持ちを会社名にしました。ちなみに古語で「ものごとがうまくいく、納得がいく」という意味もあるそうです。コンテストでは「コミュニティビジネス部門」で優秀賞を受賞。熱い思いで取り組む和久田さんと影山さんの存在を多くの人が知ることとなりました。「市長にラックを持って突撃した」こともあるという和久田さん。その熱意と行動力に共感した人たちが徐々に増え、思いを伝えることでファンを増やしたふたり。並行して進めたクラウドファンディングでの資金調達も目途がたち、浜松で「ことゆくラック体験会」をスタートしました。

会社員時代にイベント出店の経験はあるものの、販売する商品はターゲットの限られたランドセル。「まだまだ知らない人へどう伝えていったら…と思っていたのですが、ママ友がまたその友だちに紹介してくれ足を運んでくれることもあるんです」と話すように、周囲の応援を受け体験会には多くの人が訪れています。ランドセル購入まで余裕がある年中の親子が興味を持って見に来たり、障がいがあり通常の固いランドセルを背負えない子が使いたいと言ってくれたりと、新しい出会いもあったそうです。和久田さん、影山さんの子どもたちもことゆくラックで登校し感想を話してくれるため、身近にいちばん正直な利用者がいる毎日です。それぞれの家族や友だちが大切な応援者となり、一つひとつの出会いと声が、ランドセル作りの原動力となっています。

これからのふたり ことゆくラックを通して目指すこと

和久田さん

体験会を通して、入学予定の親子からはもちろん、現在通学中の親子からも「日によって使い分けたい」と注文が入り始めます。「新学期がスタートし、どんな声が集まるのか楽しみな反面正直不安もある」そうですが、「ほかの子と違うと嫌な思いをしないかな?」という親の迷いに関してふたりは「ランドセルにも選択肢はたくさんあったほうがいい」と考えています。ことゆくラックを選んだ子どもの「これが好き」という気持ちは、「自主性を育てるひとつになるかもしれない。人と違っても好きだから使いたい、という子どもの気持ちを大切にしてほしい」と話します。

「わが子だけでなく、どの子も笑顔で登校してほしい」と、ことゆくラックを生み出したふたりの思いは、人から人へ伝わり、ここ浜松から広がり始めています。母親ならではの視点から生まれた気づきが、思いも及ばなかった起業につながった彼女たち。家庭では母親として奮闘中のふたりですが、浜松発の社会起業家としてのこれからの活躍に期待します。

(取材・文/makiko)

プロフィール

和久田 麻衣さん

ことゆく社店内

磐田市出身。雑貨メーカー直営の雑貨店に販売・バイヤーとして勤務後、結婚・出産を経てベビーグッズメーカーにて商品企画として勤務。従来のランドセルに疑問を持ち、影山さんと共にランドセルの商品化を企画。試作品完成に合わせて「合同会社ことゆく社」を設立。ナイロン製の軽量ランドセルの普及につとめる。

影山 恵さん

浜松市出身。雑貨メーカーで長年商品企画デザインを担当。仕事を続けながら結婚・出産し、その後「メリデザイン」として遠州織物や浜松注染など地元の素材を活かしたオリジナルの手ぬぐいや商品を製作販売。デザイン、イラスト制作なども行う。長女が小学校入学後に、従来のランドセルに疑問を感じ、和久田さんと共にランドセルの商品化。「合同会社ことゆく社」を設立する。

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