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学習障害(限局性学習症)/発達性ディスレクシア(発達性読み書き障害)の対応について

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目次

はじめに

小学校のクラスにはおおよそ30人くらいの子どもが在籍しています。その中には勉強が得意な子もいればスポーツが得意という子もいるでしょう。
以前は、勉強ができない子は「怠けている」、「努力が足りない」といわれてしまうことが多かったのではないでしょうか。昨今では、運動が苦手な人がいるように、学習が苦手な人もいることが認知されてきたように思います。

「学習障害とは何か」については前項の宮本健先生の説明(診断と症状について)を読んでもらうとして、「学習障害」というワードが広まってはいますが、「学習障害に対して何をしたらよいのか?」ということはあまり理解されていないような印象を受けます。ここでは学習障害への対応について話を進めていこうと思います。

まず初めに、学習障害への対応には、明確な答えがあるわけではありません。それは学習の難しさが出現する理由のひとつとして、個人の情報処理能力の偏りがあげられるからです。この偏りが大きいほど一般的な方法では学習の定着は進みづらく、定着云々の前に子ども自身の学習の意欲が低下していきます。何かをやり遂げるためには、ある程度の繰り返しの練習が必要です。繰り返しのためにはそれを行う意欲も欠かせません。この意欲を維持するために支援や配慮は必要といえるでしょう。

本稿では、学習障害の中でも中核といわれる「発達性ディスレクシア(発達性読み書き障害)」に対する支援について、医療場面、学校場面、家庭での3つの場面に応じてできることを話題に挙げていこうと思います。

I. 発達性ディスレクシア(発達性読み書き障害)とは?

発達性ディスレクシアを持つ人は、文字や文字列を音韻化する過程(読み)や、音韻や音韻列から文字形態を想起する過程(書き)について、正しく読んだり書いたりする側面(正確性)と、滑らかに読んだりすばやく文字形態を想起する測面(流暢性)のいずれか、あるいは双方に困難を示すとされています。学習障害(限局性学習症)児の80%には、読み書きの障害があるといわれ、発達性ディスレクシアは学習障害の中核をなすといわれています。

発達性ディスレクシアは、読み書きの習得度が、知能や生活年齢から推測されるものと異なる(低い)ことが多く、環境要因では説明ができない障害とされています。このため読み書きに困難のある子どもは、それにかかわる認知機能(音韻能力・視覚認知能力・自動化能力および語彙力)のいずれか、またはすべてに弱さ(苦手さ)があると考えられています。

II. 医療における支援

医療の現場でお子さんにお会いすると、学習のつまずきが大きくなった段階であることが多くあります。本人の様子を記す学校からの報告や、保護者からの状況説明の多くには、「〜できない」という表現をよく見かけます。このいわゆる「できない」は何に由来しているのか、検査を通して紐解き、本人や保護者に情報を共有していくことが、医療の場における支援といえるでしょう。

医療でできること

  1. 現状評価
    次ページに記載した検査を用いて現時点の学習の難しさの要因を見つけることや、今後のアプローチを考える上で必要な、本人の強み(得意)と苦手とする部分を洗い出す。
  2. 見立て
    検査の結果や聞き取りで得た情報をもとに、学習のつまずきがどのように起こっているのかについて仮説を立てる。
  3. 保護者への説明
    検査結果から考えられる本人の強み(得意)と弱み(苦手)、それに伴う見立て・学習支援のための具体的な方法の相談、および配慮を受けたほうがいいことなどについて伝える

1. 学習障害が疑われるお子さんへの知能検査について

1)ウェクスラー系検査 (WISC WPPSI など)

知能を測る検査は、しばしば「読み書き検査」と組み合わせて行います。その理由として、学習の難しさに知的な「ゆっくりさ(遅れ)」を伴うか、能力の偏りなどがないかの判断が必要となるからです。

知的にゆっくりの(遅れがある)場合、学習内容の定着のためには、学習課題の反復が一般的に想定する回数よりも多くなるでしょう。しかし、正しい方法を繰り返すことで定着をはかることができると考えられます。また能力の偏りがある場合はこの偏りを考慮して、教示の方法や学習の方法を創意工夫する必要があると思われます。
学習場面においてはワーキングメモリ(WM)の要素はとても大きく、この部分の特徴によって、支援の方法は変わると考えられます。(なお、WPPSIでは指標としてワーキングメモリの指標はないため厳密な評価はできません。)

ワーキングメモリ(WM)について

ワーキングメモリとは、情報を一時的に記憶しながら処理する能力のことです。例えるなら、頭の中にみなそれぞれにある「メモ帳」のようなものです。このメモ帳には、言葉や図形、数字など様々な情報を書き込むことができます。このメモ帳はなんでも書き込める代わりに、容量には限りがあります。つまり一度に書き込める情報量には限りがあるということです。そのためメモ帳の情報は、古くなったり必要がなくなったりすれば消えてしまい、新しい情報にアップデートされていきます。いったん消えてしまった情報は戻ってくることはありません。

ワーキングメモリ(WM)に一度に記憶・処理できる情報量には個人差があります。また、既存の情報(=長期記憶)のなかに聞き取った内容と関連する知識がない場合には、ワーキングメモリ(WM)内の情報はほとんどが理解できない音声情報の羅列になってしまい、情報として長くとどまることは難しいとされています。

またワーキングメモリ(WM)の容量が小さい子どもの場合には、多くの情報をいっぺんに与えられるとオーバーフローを起こしてしまい、それ以降の情報が入らないということが起こりえます。ワーキングメモリ(WM)と一口に言っても4つの側面があります。

表1.ワーキングメモリの4つの側面
    覚える 覚える+処理
言語領域 言語的短期記憶
例)言われたことを覚えておく
 
言語性ワーキングメモリ
例)音声を記憶しながら考える(作文など)
 
視空間領域 視空間的短期記憶
例)黒板の文字を書き写す
 
視空間性ワーキングメモリ
例)物の形を比較する、見比べる
 

子どもが持っているこれら4つの側面のうち、どの側面が強いか・弱いか支援者が理解しておくと、今起こっている問題がどんなものに由来し、解決を図るには何をしたらよいのかが分かりやすくなるといえるでしょう。

2. 「読み書き」についての評価

1)改訂版 標準読み書きスクリーニング検査 (STRAW‐R) (ストロウ-R)

発達性読み書き障害を検出するためのスクリーニング検査です。基準値が作成されているため、読み書きの到達度を客観的に評価することができます。ひらがな、カタカナ、漢字の3つの表記別に評価が可能です。文字習得に関与する認知能力の一つである「自動化能力(=意味や記号からの語音想起のスピード)」についても調べることができます。子どもの音読速度を測定できるため、試験時間の延長を希望する受験生にも対応しています。

2)小学生の読み書きの理解 URAWSS‐II (ウラウス-II)

学校現場で導入しやすく、集団での実施も想定されているものです。文章の読みの速さ、書き写しの速さを評価し、三段階にて評価が可能です。また、読みに際して内容をしっかりと踏まえて理解しているかについても、簡易的だが評価することができます。検査の最後には、子ども自身にアンケート形式で「他者に文章を読んでもらうと助かるか」という設問もあるため、子どものニーズの把握にも役立ちます。中学生では英語版も存在します。他にも、「特異的発達障害診断治療のための実践ガイドライン」、「T式ひらがな音読支援ひらがな直音音読検査」などがあります。

3. 認知能力の評価

読み書きの習得の難しさには、認知機能の弱さや偏りが関与していると考えられるため、本人の認知の特徴、および何が強み(得意)で何が弱い(苦手)部分かを知ることが重要です。

1)「見る力」を育てるビジョン・アセスメントWAVES

見る力を幅広くチェックする検査です。小学1年生〜6年生を対象にしています。日本人を対象に標準化されており、集団でも個別でも実施が可能です。
実際の学習場面で必要とされるスピーディーさを見るため、問題には時間の制限が設けられています。スクリーニング検査としても、個人の特徴を掘り下げる目的でも使用できます。現在はデジタルVersionも存在しています。
目と手の協応、眼球運動、視覚的注意、形態知覚・認知、空間知覚・認知、視覚性記憶などをはかることができます。

2)K-ABC II

子どもの知的な能力を、認知処理過程と知識・技能の習得度の両面から評価し、本人の得意とする認知処理様式を見つけることができます。認知処理を継次処理と同時処理だけではなく、学習能力、計画能力の4つの能力から測定しています。また習得尺度では、語彙尺度、読み尺度、書き尺度、算数尺度の4つの尺度ごとに評価が可能です。それぞれの下位検査ごとに出来栄えを相当年齢で表わすこともできます。認知尺度と習得尺度を比較することで、能力に応じた学習が定着しているかを見ることもできます。適応年齢の幅は大きく、18歳11か月までが評価の対象になっています。

3)レイの複雑図形検査(ROCFT)

もともとは脳損傷患者の視空間知覚や知覚構造化、視覚記憶を評価する目的で作成された検査です。34の線分と内部に3つの点を持つ円からなる複雑な幾何学図形を題材にしており、これを模写および再生する課題となっています。現在は小児の臨床の場面でも活用されることが増えており、学習障害(限局性学習症)にも適用されることがあります。

4. 聞き取りによる評価

前出の検査と合わせて、保護者にそれまでのお子さんの様子を伺います。ここでの聞き取りの内容は、あくまで「あたり」をつけるためなので、補助的なものではありますが、読み書きについて気になる子について、下記の確認を取っておくのは、子どもを理解するうえで役に立つでしょう。

学習障害を疑う視点

  • 幼児期に文字への興味があまりなかった
  • 絵本を読む習慣・漫画を読む習慣がない
  • ひらがなの読み書きの習得が遅い (拗音・促音など小2以上)
  • カタカナがなかなか覚えられない
  • 練習をしても漢字が覚えられない
  • 漢字書き取りテストの前日に練習すると良い点数が取れるが、しばらく経つと漢字を忘れてしまう
  • たどたどしい読み
  • 算数の文章題が困難だが、問題を読み上げると可能
  • 語性錯読がある (「大学」という文字を見て「がっこう」と読むなど)
  • 文字を書くことに時間がかかる
  • 文章を読むことはできるが、内容は把握できていない
  • 書くのがゆっくり

以上のように、医療としての支援は、客観的な評価(検査)と聞きとりによる評価の双方から、子どもの苦手とする事柄とその要因を考えていきます。どんな支援が効果的かは、何を苦手としているかによって異なります。Aちゃんがやっている支援がBちゃんでも上手くいくかどうかはわかりません。むしろAちゃんで奏功していることがBちゃんにとっては不利に働くということもあるかもしれません。

より良い支援のためには、本人の特性をしっかりと見立てる必要があり、この見立てをもとにして、以降の合理的配慮や家庭での支援に話は繋がっていきます。人にはそれぞれ「自分に合った方法がある」と分かることが、支援の第一歩であるといえるでしょう。

III. 学校生活の質を低下させないための支援:合理的配慮

学校生活をおくる中で学習のウエイトは決して小さくありません。子どもたちにそれぞれの個性や特徴があるように、実は学び方にも「合う・合わない」があります。その子の強み(得意)に合致する方法を実施していくことこそが合理的配慮であり、それは子どもの学校生活の質の維持につながるでしょう。

合理的配慮とは

障害のある子どもが、他の子どもと平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適切な変更・調整を行うことであり、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるものです。

2016年4月からは障害者差別解消法において、合理的配慮の否定は差別に当たるとされています。また障害があるから大目に見る、障害があるから気を配る、障害のある人の主張を全面的に受け入れる等の事柄とは異なります。

IV. 支援方法について 学校における合理的配慮の例 (表2)

1. 「読み」に関する支援

支援方法 具体的に
書体を変更する フォントをメイリオ・ヒラギノなどに変更する。子どもによって読みやすいフォントは異なるので、本人の読みやすいフォントを利用できるとよい
機械や他者による読み上げ ペンでタッチすると読める音声付教科書
マルチメディアデイジー教科書
デジタル教科書
読み上げペン
もちろん現場で教師が読み上げを行うという方法でもよい
文節ごとを指で示しながら読む  
拡大教科書の使用を許可する  
漢字にフリガナ(ルビ)を振る テスト場面で(業者のテスト、先生の自作のテストに関わらず)ルビを振る
語彙を増やす 知っている言葉の数が多いことで、文章の前後から推測して読むことができるようになる
読みのまとまり事にスラッシュをいれる 「私たちが/関わる/ 全ての人を/ ヒーロー に」のように一息で読めるところで区切りを入れ、子どもが読む際にはスラッシュごとに読むことを伝える。子どもの年齢や発達に応じてスラッシュの中の量は調整があるとよい

2. 「書き」に関する支援

書字における止め・はね・はらいにこだわらない 大まかに字形が取れていればよしと見なし、失点や直しの対象としない
筆順にこだわらない 上記と同様に字形が取れていればよしとみなす
テストでの回答をひらがなでも正答とみなす 回答の内容が正しい場合はひらがなの回答や文字の軽微な間違えであっても正答とみなす
書く量を調整する 問題文を写す作業をカットするために直接書き込めるプリントを用意する
宿題の漢字を書く量を減らす
大きいマス目、書くスペースを用意する 不器用な子にとって、書字のスペースが小さいと文字が重なり合ってしまったり、たとえ書けたとしても後から見たときに判別がつかない場合も多い。このため大きめの余白、スペースを設けることが助けとなる
書字の負担を軽減するためにタブレット等ICT(情報通信技術)の使用 学校支給のタブレットだけではなく、自前のタブレットやPCも使えるように許可する。またタブレットにあるアプリでノートを書くことを許可する。授業の板書の撮影は、好きなタイミングで行っても良いとみなす。予定は筆記にこだわらず、写真撮影にしてもよいと許可する
キーボードによる入力 作文など長文作成はWordなどの利用を認める
代筆 家庭で行う宿題などは保護者の代筆でも良いと認める
音声入力  
漢字テストにおける配慮 子どもの発達に応じて配慮の程度を変えられるとよい。
・事前に問題を配布してもらう
・記述式テストでは選択肢のある問題に変更
・書きはテストで問わず読みのみを問うものに変更する
など

3. 宿題の調整

音読宿題の変更 ペンでタッチすると読める音声付教科書、「マルチメディアデイジー教科書」などに文章の読み上げをしてもらい、本人はそれを聞く課題に変更する
書き取りの量の調整 書く量を減らすことや、本人の書字の負担感を踏まえて、書き取り自体を止めて漢字のプリントを宿題にする など
宿題をノートなどの紙媒体ではなく、ICTでの提出を許容する タブレット端末にあるアプリを活用しながら宿題を進める。
例 OneNote
・共有機能で、評価をつけてもらう
・教科書や資料を撮影し貼り付ける
・表や絵を直接書き込む
・ワードやPDFファイルを挿入し記入する(教師が作成したワークシートをそのまま添付できる)
など

4. 環境調整

座席の配置 前の席にすることで、不要な刺激を取り除く
別室受験 読み上げ支援を行うための配慮
試験時間の延長 読みに時間がかかるため、十分な時間を確保する
他児への説明 特別な用具、用品、支援を行う際に、「贔屓」、「ずるい」という声が上がることも多いため、担任からクラスメイトに対して説明があると対象の子どもの気持ちも安定しやすい。 絵本や例えを用いると伝わりやすい。
例「なまけてなんかない!ディスレクシアの男の子のはなし」品川裕香著など

子どもたちの中には、配慮を自分から希望するタイプの子もいれば、たとえそれが自分にとって有益な方法であっても、人と違うことをして目立ちたくないと思う子も一定数います。本人のやってほしいこと・やってほしくないこと(=希望)を聞いた上で、支援や配慮を展開していくという視点が大切です。

そもそも合理的配慮を得るためには?

合理的配慮を受けるために必要とされることは…

  • 手帳は不要といわれている
  • 医師の診断書は必要となる地域と、必要のない地域がある

共通テスト(旧センター入試試験)で合理的配慮を受けるためには

  • 医師の診断書を提出
  • 高校での合理的配慮を受けていたという実績が必要

高校入試は特に条件は設定されていないが…

  • 本人や保護者からの要望
  • 学校側からの要望(それまで学校で受けていた合理的配慮の経緯)
  • 専門家からの情報や意見書などが必要とされることが多い

V. 家庭における支援

子どもができることを増やすために、学習環境における支援の体制を整えると同時並行のペースで行っていきたいことがあります。それは、本人自身の能力の底上げです。ただし、ここでいう能力の底上げとは、学年相応の内容を定着させる・テストで100点を取るためのものではなく、基本的な読み書きスキルの向上を目指すといったことを指します。たとえば書字に関しては、日常生活で必要最低限のものを書けるように(おおよそ小学校3年生、4年生くらい)することを目指すものです。

ここでは、基本的な読み書きスキル向上のために家でできることや、集団での学習場面を想定した家での準備にあたるものを紹介していきます。

1. 読めるものを増やす

一般的に読めないものを書く練習は、写す作業の範疇にとどまってしまうため、書く練習を行う前には、それらが確実に読めているかのチェックをしていきましょう。
特に、ひらがなやカタカナについては100%読めることを目標とすることがおすすめです。なぜならば、ひらがなが9割程度の習得度の場合、「すなどけい」のような5文字で構成される単語の読み上げの正答率が59%になるなど、文章を読む際のハードルが上がることが予想されるためです。

ひらがなを読むための練習

  • キーワード法
    「ね」は「ねこのね」、「き」は「きのこのき」のように頭文字から連想させて想起させる。本人が知っている・言える単語を用いることが重要であり、聞いて覚えておくことが得意な子に向いている方法。
  • 文字の形態を言語化する方法
    ひらがなの『「ね」は猫が背中を丸くしたように丸くなっているね』などのように文字の特徴を言語的に述べて説明する方法。
  • 50音表を活用
    最初に「あかさたなはまやらわをん」を一人で暗唱できるようにする。暗唱ができるようになったら「あ…あいうえお あか…かきくけこ あかさ…さしすせそ…」のように暗唱した頭文字からその行が言えるように繰り返していく。こちらも一人で暗唱して50音が言えるように練習を行う。これらを、50音表を見ながら行う方法。
  • フラッシュカードによる方法
    一枚に1文字ずつ標記のあるカードを用意し、ランダムに出題し読ませていく。このとき正答の時は次に進み、誤答の時には正しい読み方を伝え、次のカードに進む。読ませる際には 5秒ほど待ち、スピーディーに進める。

2. 音韻認識を育てる

単語を一つ一つの音韻に分解して認識することを音韻認識と言います。
例:「いぬ」が「い」と「ぬ」という2つの音からできていると解ること

文字がどんな音で構成されているかわからないということは、表記をする際にも間違えるということにつながります。
例:とうもろこし→とうもころしなど

  • しりとりあそび
    しりとり遊びができるようになるのは4歳から5歳くらいであるといわれています。しりとりができるためには、前の言葉がどんな音で構成されているかわかることが必要です。
  • ことばあそび
    かるた、すごろくなどがこれにあたります。50音がほぼほぼ読めるようになった段階から始めるとよいでしょう。お勉強という感じが子どもに伝わらず、ゲーム性をもって楽しく読みの練習ができます。市販のすごろくは文字が多い場合も多いので、ひらがなで表記した手作りのすごろくなどは、文章の読みの練習にも導入しやすいと思われます。

3. 文字を書くための練習

  • 試写・なぞり書き
    漢字学習では、一般的に「見本を見て書き写す」作業を繰り返す方法がよく使われています。しかしこの方法は子どもの視覚認知の力に大きく左右される方法であるため、視覚認知が弱い子どもには、たくさんの労力と時間が必要なうえ、効果も出にくいと考えられます。このため視覚認知が弱く、言語聴覚系に問題がない場合には、「音声で覚える」「意味で関連付けて覚える」という方法が有効と言えます。
  • 漢字の構成練習
    いくつかの漢字を部首毎にパーツで分けておき、それらを複数用意する。そこから意味のある漢字になるように、組み合わせを作り構成していく。
    例えば「読」は「言」と「売」で構成されているので、いくつかあるパーツの中からそれを見つけて並べるというように行う。
    漢字の構成練習
  • 3C学習法
    動きの多い子や衝動性の強いタイプのお子さんの中には、書き取りで複数回書いているうちに字形が崩れ、最終的には間違った文字を書いてしまうという場合もあるかもしれません。そういった場合には、複数書いて覚えるのではなく「一度でしっかりと覚える(=正確性を上げる)」練習が有効です。
    (1)お手本を見てなぞる
    (2)お手本を隠して(COVER)漢字を書いてみる(COPY)
    (3)書いた文字を手本と比べて(COMPARE)答え合わせをする
    3C学習法
    正しく表記できていれば、その文字の練習はそこまでになる。見比べた結果間違っていた場合は、もう一度見て覚え、隠して…とひとつ前の手順に戻る。

あらかじめ見ておく・聞いておく・知っておく

この部分は、担任の先生との連携が必要不可欠になりますが、見通しが持ちづらいお子さんや、初めての事柄は記憶に残りにくい・意味がとらえにくいお子さんにお勧めの方法です。事前に今週行う部分について担任と情報交換しておき、当該場所を家庭で触れておくようにします。触れ方については、マルチメディア「DAISY」を利用したり、「NHK forSchool」を視聴したり、保護者と一緒に教科書の問題を解いたりなど内容や本人に合った方法でよいでしょう。
いわゆるリハーサルをしておくことで、授業内容の見通しを持たせることが目的になります。

おわりに

以前は有人レジが一般的であったものが、今は無人のセルフレジが台頭してきているなど、ICT の進化にはめざましいものがあります。それは子どもたちの学習を取り巻く環境も同様でしょう。今は従来からのアナログベースのものと、ICT による先端技術が混在している過渡期とも呼べるのではないでしょうか。我々が学習をしてきた子ども時代には、ICT はありませんでした。自分が使ってきたことのない物や馴染みのない物は、時によくわからない、怖いものと捉えてしまいがちです。しかし、そのよくわからないものが子どもの助けになることも大いにあります。難しいからと言って新しいものを排除せず、私たち大人が、常に便利な道具を使いこなすために学び続けることが、子どもたちの支援の一助になるのではないでしょうか。

「家庭での支援」の項で話題に挙げたように、子どものパフォーマンス向上のためには、合理的配慮の実施と、子ども自身のスキルアップといった両軸が欠かせません。どちらかが強すぎても弱すぎてもうまく車輪は回りません。子どもの「できた」を増やすために、家(保護者)と学校とが綿密に連携をとりながら子どもにとってより良い支援が広がるとうれしく思います。


引用文献

  1. 文部科学省. 障害のある子どもが十分に教育を受けられるための合理的配慮及びその基礎となる環境整備

参考文献

  1. 宇野彰. 発達性読み書き障害. 高次脳機能研究 2016;36:170‐176.
  2. 宇野彰, 春原則子, 金子真人, ら. STRAW-R改訂版 標準読み書きスクリーニング検査 ―正確性と流暢性の評価―. インテルナ出版2017
  3. 荻布優子, 川崎聡大, 奥村智人, ら. 児童期における Rey-OsterriethComplex Figure Test の発達経過とその尺度構成の検討. バイオメディカル・ファジィ・システム学会誌 2019;21:69‐77.
  4. 河野俊寛, 平林ルミ, 中⾢賢⿓. 小学生の読み書きの理解 UnderstandingReading and Writing Skills of Schoolchildren. atacLab. 2017.
  5. 品川裕香. なまけてなんかない!岩崎書店2017.
  6. 鈴木ひみこ, 野田航, 米山直樹, ら. 小学5年生の漢字書字スキルに及ぼす「3C学習法」の効果
  7. 竹田契一, 奥村智人, 三浦朋子, 編. 「見る力」を育てるビジョン・アセスメント WAVES」ガイドブック, 学研. 2014.
  8. 湯澤正通, 湯澤美紀, 編. ワーキングメモリを生かす効果的な学習支援 学習困難な子どもの指導方法がわかる!学研プラス 2017.
  9. 湯澤美紀, 河村暁, 湯澤正通, 編. ワーキングメモリと特別な支援 一人ひとりの学習のニーズに応える. 北大路書房 2013.
  10. 朝比奈美輝 「通常級に在籍する神経発達症が疑われるお子様への対応」浜松成育医療学講座通信 2022; 第4号

浜松市発達医療総合福祉センター 友愛のさと診療所
公認心理師 梅村 あい
出典:浜松成育医療学講座通信 第9号(2024.6)

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