子連れでおでかけ
子育てのヒント
特集記事
子育てのヒントを検索
昔話に学ぶ子育ての知恵(6)~「ろばの子」から学ぶ子育てへのメッセージ~
グリム童話「ろばの子」のお話
「ろばの子」のお話はご存知でしょうか?簡単なあらすじを紹介しましょう。
昔、あるところに王様とお妃がいました。二人は欲しいものは何でも手に入れることができましたが、子どもだけは授かることができませんでした。お妃が昼も夜もそのことを悲しんでいると、神様が願いを叶えてくれ、ついに子どもが生まれました。しかし、生まれてきたのはろばの姿をした子どもでした。
それでも王様とお妃は、ろばの子を大切に育てました。ろばの子は明るくて音楽が好きな子どもに成長します。
ところが、ある日、泉に映った自分の姿を見て悲しくなったろばの子は、旅に出る決心をします。あちこち旅をするうちに、ある年老いた王様が治める国にたどり着きました。
王様は、ろばの子を気に入り、王女との結婚を許します。王様は、ろばの子が寝室でどのようにすごしているのか召使に尋ねます。すると召使は驚くべき光景を報告します。ろばの子が、ろばの皮を脱ぎ、立派な美しい王子になっていたのです。王様は、こっそりろばの皮を、外で燃やしてしまいます。
皮を奪われた若者は逃げ出そうとしますが、王様は彼にこう声を掛けます。
「そんなに急いでどこへ行くんだ。ここにいなさい。おまえはそんなにも美しい若者だ。おまえは、わたしのところから、去ってはいけない」(「語るためのグリム童話集7 星の銀貨」より)
その後、王様が亡くなると、ろばの子は若き王となり、お妃とともに豊かで満ち足りた日々を送りました。
大人のやさしいまなざし
「そんなに急いでどこに行くのだ。ここにいなさい。おまえは、そんなにも美しい若者だ。おまえは、わたしのところから、去ってはいけない」
初めてグリム童話の「ろばの子」というこの話を読んだとき、年老いた王様の、この言葉が深く心に残りました。自分はわが子にこのような言葉をかけたことがあっただろうか?そんな思いが胸に湧いてきたのです。
第4回のブログでも書いたように、私はわが子を心配するあまり、その心の振り子を大きく揺らしていました。結果として、子どもの良いところ美しいところを、しっかり言葉にして伝えることができていなかったのではないかと振り返ることがあります。もし子育てを始める前にこの言葉に出会っていたら、もっと良い親になれたかもしれないと思います。そんな思いが、この物語を読むたびに胸をよぎるのです。
もがきながら成長する若者の姿
「お前は美しい人間だ」
大人はこの言葉を、子どもや若者にしっかりと伝える必要があります。
物語の王子は幼い時には自分がろばの姿をしていることに気づかず無邪気に育ちます。しかし、ある時、泉に映った自分の姿を見て、現実に直面します。これは子どもが成長する過程で、自分自身と向き合う瞬間を象徴しているように思います。
子どもも幼い時には自分がどんな人間であるか意識せずに育ちますが、成長するにつれて、経験や人間関係を通じて、自分自身を客観的に知る時がきます。
ろばの子は旅を続ける中で、ある王様の宮殿で暮らすことになります。ろばの子は身分の低い兵士たちの間に座らされて食事をするよう言われますが、
「ぼくは、なみのろばの子じゃない。ぼくは高貴な生まれのろばの子なんだ」(「語るためのグリム童話集7 星の銀貨」より)
と言って、「王様の隣に座りたい」と要求します。この場面は、まさに自己理解の芽生えを象徴しています。子どもが成長の過程で自分自身を理解し、「どんな場所に身を置くべきか」「どんな存在であるべきか」を考え始める姿そのものです。
大人の役割
幼い時には両親が自分を認めてくれて安心して生活していますが、学校に行くようになると、先生や友達に認めてもらいたいという気持ちが生まれます。社会に出てからも同じです。
ろばの子の育ちは、まさに子どもの心の成長を表しているといえるでしょう。子ども(若者)が自信を持てずに揺れているときに、こう語りかけてくれる大人が側にいたなら・・・。
「そのままで良い。あなたはとても美しい」
この一言がどれほど子どもの心を支えるでしょう。そして、周りの大人を信頼して、社会に出ていくことができるでしょう。大人の役割は、正しい答えを与えることではなく、揺れる心に寄り添い存在そのものを肯定する事なのかもしれません。この王様はそのような大人の役割をしっかりと果たしています。
子ども(若者)の心の成長はゆっくりで、見えにくいものです。本人自身も自覚できずに、不安な気持ちでいるかもしれません。だからこそ、この王様のように「美しい人間だ」と認め、言葉にして伝えることが大切だと思います。それが親や周りの大人がしてあげるべき大切なことだと今また改めて感じています。
「そのままで良い。あなたはとても美しい」
この言葉は、きっと親から子どもへの最高の贈り物になるでしょう。