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虐待をうけた子どもの身体的・心理的・精神的な所見や特徴/児童虐待 こどもを健やかに育むために
目次
はじめに
子どもへの虐待すなわち児童虐待とは「児童虐待防止法第2条」において、保護者がその監護する児童(18歳に満たないもの)に対し行う行為として、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待の4類型に分類されています。また、児童虐待防止法第3条では、「何人も、児童に対し、虐待をしてはならない」と保護者に限らず、あらゆる者からの児童に対する虐待行為を禁じており、養育者以外からの虐待を受けている児童についても「要保護児童」に該当し通告及び保護の対象になります。
虐待が見過ごされていると、身体的虐待では時間の経過とともに進行性に虐待内容が増悪し、放っておかれればいずれ命にかかわる暴行になり死に至ることもあること、命はおとさなくても、虐待が続くことが、子どもたちに心身の傷を与え、将来的に子どもの心身の健康に影響することはよく知られています。
また、最近のACEs(Adverse Childhood Experiences:子ども時代の逆境体験)研究からは、直接の身体的暴力がなくとも、子ども虐待を中心とした小児期の逆境体験(虐待や家庭の機能不全)は心身の健康に影響し、寿命が短くなるリスクも高くなることが明らかになってきています。
身体症状の有無や重症度に関わらず、虐待の可能性に気づき対応することはその子どもの将来に影響する重要なことなのです。
1.虐待の類型とその症状の特徴
(1)身体的虐待
身体的虐待とは、児童の身体に外傷が生じ、または生じる恐れのある暴行を加えることです。具体的には、外傷としての打撲傷(痕)や皮下出血、骨折、頭蓋内出血などの頭部外傷、内臓損傷、刺傷、火傷(痕)、首を絞める、殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、溺れさせる、逆さ吊りにする、寒い冬に戸外に閉め出す、縄などで拘束する、誤飲その他の事故などです。
子ども虐待を疑う状況としては、生じている部位、種類とその性状(多発性、新旧混在している等)を総合的に考える必要があります。子どもの発育・発達段階や傷の部位や状態など、保護者などが語る受傷機転との整合性の吟味も重要です。
■打撲
通常、子どもが転倒などで受傷しやすい部位は(顔面前額部や鼻尖部や頤(おとがい)部、肘、膝蓋部、手背、手掌など)突出や露出している部位です。
逆に、衣服に覆われていて受傷しにくい腹部や背部、臀部、大腿内側、外陰部や耳などに傷(痕)や皮下出血を認めた場合は虐待を疑うことが必要です。
特に同じような形の皮下出血が複数ある場合や、新旧のものが混在する時は受傷を反復している可能性があります。
平手打ちに特徴的な指の太さの直線状の2~3本の縞状痕、棒状のものやベルト、ループコードなどを使用して叩かれた場合にできる道具の形を残す痕、つねられた場合や噛まれた場合にできる特徴的な皮膚痕にも注意が必要です。
図:左.事故によってケガをしやすい部位
右.虐待によってケガをしやすい部
■打撲痕の色の変化
打撲により血液が血管内から皮膚や皮下組織に流出することによりあざができますが、あざができるまでの時間や深さによりあざの色は時間によって変化していきます。
受傷早期は赤紫色や青紫色ですが、数日から1週間程度の経過で血液中のヘモグロビンが分解、吸収されていく過程で青色→緑色→茶色→黄色に変わっていきます。
深さとの関係では、黄あざは浅い打撲では受傷約3日後、深い部位の打撲では受傷7~10日後に出現します。複数のあざがあり、新旧の時期が異なるあざを認めることは虐待の典型的な所見とされています。
図:打撲痕の色の経時的変化
■熱傷
虐待による熱傷の場合、splash markとよばれる、かかったお湯が飛び散ったような熱傷ではなく、加熱した熱器具(アイロンなど)やタバコを押し付けたりすることによる境界がはっきりした熱傷になることが多いことが特徴です。
■骨折
寝返りを獲得する以前の月齢の乳児のベッドからの転落事故や、一人歩きを始める以前の幼児の鎖骨や長幹骨の骨折、通常に転倒した場合の頭頂骨の骨折などは生じにくいことが知られています。傷の状態と保護者などが語る受傷状況の説明は注意して聞くことが必要です。
(2)性的虐待
性的虐待とは児童にわいせつな行為をすること、または児童をしてわいせつな行為をさせることです。
具体的には、身体的接触(性器を触る、触らせる、舐める、性器に指を挿入するなど)、性行(膣性交、口腔性交、肛門性交など)を行う、着替えなどを覗く、性器や性交を見せる、児童ポルノ(裸の写真やビデオ撮影の被写体にするなど)など子どもの発達段階に不適切に加えられる性的被害です。
被害者は女児のことが大半ですが男児のこともあります。加害者は養父、継父、母の内縁の夫のほか実父、兄、実母のこともあります。父親の性的パートナーであることを母親が知りながら知らぬふりをする場合などは、母親も父親の性的虐待を傍観するネグレクトの加害者になります。
虐待通告件数が全体の中で占める割合は少ないですが、表に出ていないだけで実際にはもっと多くの子どもたちが被害にあっていると考えられています。
成長期の子どもにとって性的虐待の経験は深刻な影響を与えます。身体のみならず心に深い傷を負います。性的虐待にあったのは自分が悪いのではないかと考えて自己評価を下げ、心理的に非常に不安定な状態に陥ることが多いとされています。
性的虐待は反復されることが多く、虐待行為の耐え難さや被害を避けることの困難さから、子どもは自らの心を守るための防衛機制として感情や感覚を麻痺させ、考えないようにしてなんとか日常生活を過ごすようにすることも多く、その結果、のちに複雑型PTSD(心的外傷後障害)や解離性障害を含め様々な精神症状や診断につながることも少なくありません。
性的虐待をうけた子ども自身も年齢不相応な性的な言動(性化行動:他者の性器を触る、自身の性器を見せる、人形やおもちゃで性行為をまねるなど)や性的逸脱行動を認めることもあります。
また、自発的な性行動を起こす以前の年齢の子どもの性感染症(梅毒、淋菌、クラミジア)は性虐待の可能性が高いとされています。受傷機転のあきらかでない性器損傷も同様です
(3)ネグレクト
ネグレクトとは、児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食または長時間の放置、保護者以外の同居人による子ども虐待と同様の行為の放置、その他の保護者としての監護を著しく怠ることです。すなわち、子どもの基本的なニーズを十分に満たさない状態のことです。具体的には以下のようなものがあります。
- 身体的ネグレクト(栄養・衛生ネグレクト)
食事や衣服、住居環境が極端に不適切で、健康状態を損なうほどの無関心・怠慢で、適切な食事を与えない、下着など長期間ひどく不潔なままにする、いわゆるごみ屋敷など極端に不潔な環境の中で生活をさせるなど。 - 環境(監督)ネグレクト
子どもの安全を守るために必要な監視を怠ることで保護者が何日間も出歩いて子供が一人で家に放置されている、車の中に子どもたちを放置して親がパチンコなどに熱中する、火傷やタバコの誤飲を繰り返しているなど。 - 情緒的ネグレクト(愛情遮断):子どもにとって必要な情緒的欲求にこたえていないことで、子どもが関わろうとしても無視したり、拒絶されたりする状態です。母親などの養育者がうつ病などの精神疾患の場合などにも生じます。
- 教育ネグレクト
教育を受けさせない、子どもの意思に反して登校させない状況。 - 医療ネグレクト
必要な健診やワクチンをうけさせない、必要な医療・歯科的なケアや治療をうけさせない状況。
ネグレクトがあると、子どもは心身の発達が妨げられたり、疾病に罹患したりするだけでなく、生命の危険も生じます。低身長・低体重などの身体的な発育不良や知的発達にも影響します。しかし、発育不良の原因としては、子ども自身に栄養吸収障害や喪失の原因になる基礎疾患がある場合や、偏食や過敏さの強い、いわゆる発達障害(神経発達症)を子どもが有していて養育が難しいことが関係している場合もあります。また、保護者側の誤った知識や指導で過剰な栄養制限やアレルギー除去食の継続の結果の場合や、経済困窮(貧困)のために食環境を含めての不適切な生活環境が関係していることもあります。
しかし、保護者から必要な愛情を受けられずに育つことはその子どもの愛着関係の形成に影響し、心理的・情緒的発達にも影響を及ぼします。愛着形成の未熟な子どもは、表情が乏しく笑顔が乏しく、親がいても近づこうとしなかったり、逆に保育所や学校などの場面で、ほかの大人に過度にスキンシップを求めたりするなどの行動を示したりします。
外見からも、服装が汚れていたり綻びていたり、異臭がする、寒くても薄着で靴下を履いていない、季節に合わない衣服や体形に合わない服装を身に着けている場合などは、必要な衣類を用意してもらえない、お風呂に入れていない、衣類の洗濯などもしてもらっていないなどの可能性がありネグレクトを疑う必要があります。
学校などでおかわりを繰り返す、異様な食欲を示すなどの場合には家庭で十分な食事を与えられていない可能性も考慮すべきでしょう。
コンビニエンスストア等で万引きをする、ほかの家から金銭を持ち出す、夜間に徘徊する、遅い時間になっても家に帰りたがらないなどの場合には、親が在宅していない時間が多い監督ネグレクトや食事を与えない栄養ネグレクト、衛生ネグレクトなどが背景に存在する場合もあります。
虐待と並んで子どもの基本的人権を侵害する問題としていわゆる「ヤングケアラー」があります。ヤングケアラーとは大人が担うべき家族の世話や家事などの代役と責任を日常的に担っていて学習や友人関係に影響が出ているような状況にいる子どもたちのことを指します。
当事者である子どもたちには自覚がなく、家族の問題として誰にも相談できないでいる例も少なくありません。しかし、医療的ケア児や高齢者などで介護の必要性が高くなった家庭において、保護者の疾患やひとり親家庭、経済的事情などにより、保護者が養育を十分できないネグレクト状態が発生し、それにより生じた医療的ケア児や高齢者のケアニーズを子ども自身がヤングケアラーとなって担当し、保護者が担うべき部分を補ってケアニーズの充足をしている場合などはネグレクトと判断されることもあるので注意が必要です。
(4)心理的虐待
心理的虐待とは、児童に対する著しい暴言または著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力、その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うことです。
具体的には、
- 言葉により脅かし、脅迫する。
- 子どもを無視したり、拒否的な態度を示す。
- 子どもの心を傷つけることを繰り返し言う。
- 子どもの自尊心を傷つけるような言動をする。
- 他のきょうだいとは著しく差別的な扱いをする。
- 子どもの面前で配偶者やその他の家族などに対し暴力を振るう。
などがあてはまります。
このほかに、行動や交流の自由を不当に制限して孤立させることや、子どもをそそのかして反社会的行動や自己破壊行動をさせるなどの行動も含まれます。
2004年「児童虐待防止等に関する法律(児童虐待防止法)」の改正によりドメスティックバイオレンス(domestic violence:DV)の目撃が心理的虐待の一種であると位置づけられてからは、家庭内暴力の目撃をしている子どもを「面前DV」として警察から通告されることが増加したため、最近では日本の虐待通告類型で最も多くなり割合は全体の60%を超えています。
心理的虐待は、虐待を受ける子どもに対し、存在価値の否定や欠点の指摘を繰り返し与えるため子どもにトラウマ(心的外傷)を与えます。これまで記したように、身体的虐待や性虐待、ネグレクトを含め、あらゆる虐待は心理的に影響を及ぼし、子どもの心に深い傷を与えることを心に留めておかないといけません。
2.心理的虐待による心身の発達への影響
心理的虐待は長期的に様々な精神心理的問題、行動の問題、医学的問題を引き起こすことが明らかになっています。
虐待体験による心的外傷の体験は、子どもたちの社会性の発達過程に影響を及ぼし、集団適応、交友関係、コミュニケーション行動などに変化を与えます。人間関係の基礎になる対人信頼関係を危うくさせるため、安定した対人関係や社会性の獲得が難しくなり、他の子や大人と関わろうとしなくなり、長期的には人と関わることへの不安(社交不安)や孤立、集団適応の困難を来し、不登校や引きこもりなどに追い込まれやすくなります。
また、虐待体験は自身の安全感を確立させにくくなるため、自身の安全を守るために自分の衝動を抑制する能力を身に着けにくく、結果、落ち着きがなく聞き分けがない状態になり、場合によっては社会的逸脱行動や、物質乱用、依存などにも至ることがあります。
さらに、虐待体験を繰り返し受ける側は存在価値の否定体験が繰り返されるため、自身の存在に対して肯定感を持ちにくく、自己肯定感や自尊感情の低下につながります。このため怯えや不安を示すことが多く、抑うつや適応困難の継続や投げやりな態度、社会的自立の困難にもつながると考えられています。
こうした長期間にわたり傷つきを反復しながら成長した子どもが示す気分変調のしやすさ、落ち着きのなさ、衝動性や過敏性の症状は神経発達症(発達障害)であるADHD(注意欠如・多動性障害)やASD(自閉症スペクトラム障害)と区別がむずかしい状態になることもあり「発達性トラウマ障害」という概念も提唱されてきています。
あらゆる虐待の心理的被害の集大成ともいえるのが複雑型PTSD(心的外傷後ストレス)という状態です。
有害で生命を脅かされるように感情を刺激される身体または心理的な外傷体験(トラウマ)の反復により、普段からいつストレスにさらされるかわからない状況に置かれるため、ストレスへの準備状態として、いつも理由なくイライラしていたり、攻撃的・反抗的な様子でいたり、常に警戒が強く些細な刺激に反応しやすい状態になることがあります。
また、防衛機制として感情や感覚を麻痺させた場合はぼんやりすることが多くなり、意欲が乏しい様子になっていることもあります。
そのほかにトラウマの反応としてPTSDでみられる症状は、以下のようなものです。
- 再体験症状
苦痛な出来事が再び起きているように感じたり行動したりするフラッシュバック。 - 回避・麻痺症状
トラウマを思い出しそうな人や状況・物を避けようとする。 - 過覚醒症状
いつもいらいらして集中できない、集中がむずかしい、自傷や攻撃的態度、過剰な警戒心。 - 気分や認知の変化
自分が悪いと思い込んだり、抑うつ的になる。
などです。
さらに、感情及び行動の制御が困難になり、しばしば暴力的、自己破壊的行動が出現しやすくなる。自分は生きる価値がないと感じ、自分がすべて悪いと思い込むなど罪悪感にむしばまれる、対人関係においても親密になることを拒否してしまうなどの状態が重なると複雑型PTSDと診断されます。
トラウマの影響として、成人してからも、抑うつや躁状態、不安症や強迫症、パーソナリティー障害、摂食障害、薬物依存やアルコール依存症などの診断をうけ、情緒不安定で、解離症状やフラッシュバックに苦しみ、怒りや衝動性も強く、自傷行為や希死念慮、他害行為を繰り返す状態が持続する場合もあります。子ども時代の逆境体験研究の結果でも述べましたが、子どもへの長期の繰り返されるトラウマは成人期になっても影響を及ぼすのです。
3.心理的虐待の脳機能への影響
子どものときに虐待を受けたことでPTSDと診断された患者さんの脳画像研究により虐待は脳に影響を与えることも明らかになってきています。
子ども時代に厳しい体罰を受けた影響で学習や記憶を司る前頭前野の容積が減少する、暴言などの言葉の暴力を受けた人たちの脳で音や聞こえ、コミュニケーションなどに関わる聴覚野が変形する、強いストレスの影響で感情の中心となる扁桃体が変形することなどが報告されています。子ども時代にDVを見聞きしたことでも視覚野の容積が減少することが報告されており、あらゆる虐待は心身のみならず脳機能にも影響を及ぼすことを知っておかなくてはなりません。
おわりに
虐待は子どもに対するもっとも重大な権利侵害です。子どもの立場に立って権利が侵害されている状況ではないかを判断し、子どもの権利を守り、子どもの育ちが侵害されないように、子どもにかかわるすべての大人は普段から意識して行動することが必要です。
参考文献
- 厚生労働省:子ども虐待対応の手引き(平成25年8月改正版).2013
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/dv/dl/120502_11.pdf - 山口有紗編:医師・医療者が知っておきたい子ども虐待.金芳堂,京都.2025
- ジェニファー・ヘイズ=グルード、菅原真澄ら監訳:小児期の逆境的体験と保護的体験 子どもの脳・行動・発達に及ぼす影響とレジリエンス.明石書店,東京.2022
- 小橋孝介:子ども虐待.小児内科 増刊号2022;54:805-812.
- 内ケ崎西作.身体的虐待のみかた.小児内科2022;54:1797-1801.
- 日本弁護士連合会子どもの権利委員会編.子どもの虐待防止・法的実務マニュアル[第7版].明石書店,東京. 2024
- 阿部計彦:ヤングケアラーと子どもへの権利侵害―ネグレクト調査の再分析からー.西南学院大学 人間科学論集.2019;15:75-117
- 星野崇啓:心理的虐待のみかた.小児内科2022;54:1803-1806.
- 友田明美、杉山登志郎、谷池雅子:子どものPTSD―診断と治療―.診断と治療社,東京.2014.
浜松市発達医療総合福祉センター 友愛のさと診療所
平野 浩一